町4
「確か、コヤギの知り合いに魔法使いがいたはずだ。
一度訪ねてみるのがいいかもしれないな」
店主が言った。
コヤギとは、町に入ってすぐのところで出会った猫だ。
「そうしてみる。
じゃ、今回はこの剣とロッドをもらうね」
ハヌルが金貨を渡した。
「ロッドの箱は要らないから、ベルトをサービスしてよ」
ハヌルが言うと、店主はロッドを箱から出して、布製のベルトと一緒にカウンターに置いた。
ハヌルは私の腰に手を回すとベルトをつけてくれ、ベルトにロッドを差し込んだ。
「ありがとう、オヤジさん。
コヤギに魔法使いのこと、聞いてみるよ」
そう言ってハヌルが店を出たので、私も猫に軽く会釈をしてハヌルの後を追った。
「さっきの人・・・男なんや」
私が言った。
「ん?」
「性別。
見ためも声も区別つかんかってん。
ハヌルが『オヤジさん』って言うたから、男なんやぁ、って」
「あぁ、分かりにくいかもしれないね。
さっきの食料品店の人は女だったしね」
「あ、ロッドの代金。
私のためのもんやし、私も金貨もらったし。
私が払うわ。
服代も」
ポケットから金貨を出して、ハヌルに渡そうとした。
「いいよ。
ミョックから助けてくれたお礼ってことで。
次はなにかおごってもらうから」
ハヌルはさっさと前を歩いていく。
私は今回は言葉に甘えることにした。
金貨をポケットに戻してハヌルの後について行った。
「コヤギんとこに行くよ」
ハヌルと一緒に、町の入り口まで戻った。
門の近くの小屋には誰もいなかった。
「コヤギ・・・またサボってるな」
ハヌルはきびすを返すと町の中心の方に戻った。
「コヤギは、警備兵なんだけど・・・すぐどっか行っちゃうだよねぇ。
どこへ行ったのやら・・・」ハヌルは一軒一軒店を覗いて回った。
どこの店も猫。
毛足が長かったり、毛の色が多少違ってたり…
でも、私には区別がつけにくかった。
色の違い以外分からなかった。
ましてや性別など…
ハヌルは店を覗く度に、猫たちに声をかけた。
コヤギの行方を聞いたり、世間話だったり。
そのうちの何人(何匹)かに私のことを尋ねられ、そのたびにハヌルは
「リンっていうんだけど、私の友達だからこれから良くしてやってね」
と答えた。
私はただ会釈するだけだった。
表に『準備中』の札がかかった一軒の酒場。
が、コヤギは準備中の酒場のカウンターにいた。
「コヤギ!
まだ昼過ぎだっていうのに飲んでるの?」
ハヌルに呼ばれ、振り向いたコヤギは…酔ってるのかシラフなのか、毛だらけの顔を見ても私には判断できなかった。
「ん?
なんだ、ハヌルか」
答えたコヤギの声を聞くかぎり、まだ酔ってはいないようだった。
「ハヌルちゃん、言ってやってよ。
ここんとこ毎日この時間に来て飲んでんのよ」
この店主は口調から女だと思われる。
「だってこの時間に襲ってくるグエムルはこのへんにはいないよ。
一晩中警備してなきゃならないんだから、この時間にしか飲めないんだし」
コヤギは手に持ったグラスを一気にあけた。
「こっちは商売だし、売上げに貢献してくれるのはありがたいんだけど、連日となると、なんかあった時に責任感じちゃうわよ」
「そういうことは、なんかあってから言えよ。
このくらい飲んだってなんの影響もないさ。
それより、おかわりとつまみ。
ハヌルも飲む?」