町1
「え?
もうちょっとだけ休ませて」
私はカップに残ったお茶を飲み干した。
「日が暮れるまでに戻らないと大変なことになるからさ。
今のうちに出かけよう」
ハヌルはそういうと玄関のドアを押さえて、私が立ち上がるのを待っていた。
「買い物ってどこまで?
遠いん?」
私はカップをテーブルの上に置いた。
「すぐ、すぐ。
さ、行こう」
思ったより体が軽い。
疲れがほとんどない。
お茶のおかげ?
いったいお茶の成分は何なんだろう。
到着の浜辺へ行く道とは反対方向にハヌルが歩いていった。
背中にリュック。
腰に水筒とナイフ。
まもなく林が途切れ、小さな花があちこちに咲く草原に出た。
赤い花、青い花、白い花。
ところどころに背の低い木も立っている。
そして・・・犬?狼?
5メートルと離れていないところに動物の影。
犬が苦手な私は足を止めた。
ハヌルは少し前まで行って、私が立ち止まったことに気づいて振り返った。
「どうしたの?」
「犬・・・苦手・・・」
ハヌルは戻ってきて私の手を引いた。
「大丈夫。
この子達は夜行性だし、何もしなければ襲ってきたりしないから。
おとなしい子達だよ」
そういうハヌルの手に腰に下げていたはずのナイフが握られていた。
「でもハヌル、そのナイフは・・・?」
「これ?
これはこの子達相手じゃなくて・・・」
ハヌルはきょろきょろと見回して、左の遠くのほうを指差した。
「あれが見える?」
ハヌルの指差した先50メートルくらいのところに、何か小さな藪のようなものが見えた。
「あれは注意してね。
あれが近づいてきたら動いちゃだめ。
じっとしてやり過ごす。
こっちが動いてるのみつけると襲ってくるから」
ハヌルが事も無げに言った。
「襲ってくるん・・・?」
私はハヌルの手を強く握ってしまった。
「あいつは眼が悪いから、これくらいの距離なら大丈夫。
さ、行こう。
町はすぐそこだから」
私は周りの犬たちに警戒しつつ、遠くの、襲ってくるという藪を警戒しつつ、ハヌルに引っ張られるように歩いた。
すぐ前方に大きな木の壁が見えた。
町を高い壁が囲っているようだ。
大きな門が見えた。
観音開きの門の片方に小さな扉がついていた。
ハヌルはそのドアの隙間にナイフを差し込んで上にあげ、それからドアを引いて開けた。
「さ、入って」
ハヌルに促されて中に入った。
私が入ると、ハヌルは扉に掛け金をかけた。
もっと人が多いのかと思っていた。
ひっそりとした町だった。
しかし、きちんと区画整理がなされ、きれいに整った町だった。
建物はどれも、ハヌルの家と似たようなログハウスだった。
大きさが多少違ったり、店には看板が掲げてあったり。
門を入ってすぐのところにある小屋から人が出てきた。
・・・
・・・人・・・?
私は眼を疑った。
二本足で立ち、服を着ているが、顔は人とは言いがたかった。
耳は頭の上にあり、丸い顔中毛が生えていて、長いひげが左右に数本伸び・・・。
猫?