覚醒2
「流れ着くのは人だけやないん?」
私は座ったままハヌルにたずねた。
「みたいだねぇ。
不定期だしね」
ハヌルも私の隣に座った。
ナムが去った後の『森』は、また『林』に戻った。
木々の間から空が見える。
いい天気だ。
ハヌルと私は、その場に横になった。
「ナムは人を信用してないって言うてたやん?
なんかあったん?」
私がたずねた。
ハヌルの説明によると、ナムの娘のコマはナムのように木から木へ移ることができない。
まだ『体』を持っている。
木の精の根は不老不死の薬になるといわれていて、コマの根を切った人がいた。
木なので、そのうち再生されるとは言うものの、根を切られたときの激痛は、足を切り落とされたに等しいらしい。
そして、コマの場合は、切り取られた量が多く、そのうえ切り取られた部分から腐り始めたというのだ。
ザワザワと葉が音を立て、林がまた森になった。
ナムが戻ってきたらしい。
「ハヌル、リン、ありがとう。
コマは落ち着いて眠ったよ」
ナムのビー玉のような眼が優しく光っているように見えた。
「そうか。
よかった」
ハヌルは安心したように言った。
「ナム、ミョックのこと分かる?」
続けてハヌルはたずねた。
「詳しくは分からない」
「リンが叫ぶと、ミョックが体から少し離れるんだけど、なんでだろ」
「リンが叫ぶと?」
ナムの眼が私を見つめてる気がした。
なんだか気まずくて、私は座りなおした。
「私が叫ぼうがわめこうが、ミョックは締め付けてくるのに、リンが叫ぶとゆるんだんだ。
2回だけだけだったから偶然かもしれないんだけどね。
でも、2回叫んで2回ともゆるむって、なんかあるのかな、って思って」
「声の・・・波長・・・?」
私が言った。
ハヌルの声は私の声より少し低い。
私の金切り声に反応したのかもしれない・・・と。
「ミョックに耳があるとは思えないし・・・
一度は心の中で叫んだって言ってなかったっけ」
ハヌルがそういうのが聞こえたと思ったとたん、一本の枝がするすると私に向かって伸びてきた。
声を出すまもなく、私の体に巻きついた。
あっという間に、私の体は高く持ち上げられた。
「ナム!何をするの!」
ハヌルが下で叫んでいるのが聞こえる。
私は締め付けられて、苦しくて声が出ない。
「や・・・やめて、ナム。
苦しい・・・」
私は声を振り絞ったつもりだったが、空気のような声が出ただけだった。
両腕も体と一緒に枝が締め付けてくる。
足をばたばたさせたところで、何の効果もない。
そのうち、本当に息ができなくなってきた。