覚醒1
前を歩くハヌルについて行った。
ひざが、ガクガクと震えているのがわかる。
ハヌルは、海岸から林に入ると、ログハウスの方とは違う道を進んだ。
進むにつれ、林というよりは、森というにふさわしい風景になってきた。
空が見えないほど木々の葉が茂っていた。
「ナム!ナム!」
ハヌルが立ち止まり、上を見上げながら叫んだ。
そういえば、ナムがハヌルに呼びかけるときはいつも天井あたりで、ノックの音が聞こえてたのを思い出した。
もしかして、ナムって空から降りてくるのだろうか。
そんなことを漠然と考えながらハヌルのそばで足を止めた。
「ナム!いないの?」
どこからも返事がない。
私は足の震えが止まらず、その場にしゃがみこんでしまった。
「ナムゥ~!
薬が見つかったよぉ~」
ハヌルがこれ以上ないって声で叫ぶと、頭の上の方の木々の葉がザワザワと音を立てた。
しばらくすると、上の方から声がした。
見上げてみたが、人の姿は見えない。
「その娘は…?」
ハヌルはチラッと私に目をやると、また顔を上げて答えた。
「この子はリン。
この子なら大丈夫!
この子が草を見つけてくれたんだよ。」
また沈黙。
木々が動いた気がした。
私は地面に座り込んだまま高い木を見上げ、ナムなる人の姿を探してみた。
が、やっぱり見当たらない。
ハヌルが透明な薬草を入れた小袋を差し上げた。
私は目を疑った。
枝が揺れて、小袋を受け取った。
思わず居住まい正して正座して目を凝らした。
誰が枝を動かしたのだろう・・・?
小袋を受け取った枝とは別の枝が伸びてきて袋を開けた。
「おお・・・ありがとう、ハヌル、リン。
確かにこれだ!
これでコマが助かる」
高いところから声がした。
もう一度人影を探してみた。
見つかった!
人ではなかった。
太い木の幹に丸いビー玉が、青いような黒いような緑のようなビー玉が二つ並んでこちらを見ていた。
眼?
そこが眼だとなると・・・その少し下に開いている穴が口?
私はかなり間抜けな顔をして見上げていた。
「ナムは木の・・・なんだろ・・・グエムル?」
ハヌルが言った。
「木の精と言ってほしいな」
ナムらしき木の、口らしき穴が答えた。
「早速コマに飲ませてくるよ」
小袋は枝から枝へリレーされて移動して行った。
それにあわせて、ナムが移動していった。
正確にはビー玉のような眼と穴のような口が他の木に移動していった。
眼と口が移動していくと、気の背が伸び、葉が生い茂った。
眼と口の移動に合わせ、木は背が伸び、背が縮み、葉が生い茂り、葉の数が減って・・・。
しゃべる木、ウエーブのように伸び縮みする木々。
初めて見た生き物、初めて見た光景なのに、不思議と恐怖は感じなかった。
木って生きてるんだ。
ただそう感じただけだった。
「ナムもね、到着の浜辺に流れ着いたんだって。
ずっと昔だけどね」
ハヌルが教えてくれた。