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【捨て犬・イエス】  作者: シュリンケル
9/20

9イエスの由来とエリーの誓い

 子犬を抱きしめたまま泣き続けるわたしに、職員のみんなは優しく接してくれた。


坂東が規律を破った事に対して、みんなに頭を下げてくれていた。


「本来ならいけない事だが・・・事情が理解できるから」と案内してくれたおじさんが言うと、職員さんたちは笑顔で許してくれた。


そうしてわたしは、飼い主としての諸々を学ぶための講習を受けた。

(その間、坂東が子犬を預かってくれていた)


 講習の内容は、冊子に記載されていた事柄の再確認だった。

(愛情と責任をもって終生飼養し、他の飼い主の模範となる事がテーマだったわ)



「約束してくれますか?」講習に当たった職員のおじさんにそう聞かれて、わたしは姿勢を正して答えた。

「誓います」と。



 最後にわたしは、子犬の事について職員さんに聞いてみた。収容されていた間の様子などを。

「それなら、坂東君に聞いてみるといいですね。子犬は彼が担当した管理舎に居たのですから」 そう言うと、おじさんは講習室から見える廊下を指差して微笑む。


わたしも振り返り・・・微笑んだ。


講習室を覗き込む二つの顔。


 それは坂東と、彼に抱かれた子犬だった。



---


 動物愛護センターの帰り道。


坂東の運転する軽自動車の中で、彼はわたしに教えてくれた。


 子犬は収容された時、まだ生まれて間もない赤ちゃんだった事。

毎朝の処分選別で不思議と目につかなかった事。

なぜかボス犬が子犬を四六時中見守っていたらしい事。


 不思議なのは、子犬に付けられた名前=”イエス”の由来だった。

毎日聞いていたラジオで聖書の朗読が始まる時、オープニングに使われる詩篇の文句で必ず鳴きだしたのだそうだ。

(坂東はその一説を口にする。毎回流されるから覚えたそうだ)

そのエピソードから子犬は”イエス”と呼ばれたのだ。


 処分の直前にわたしが聞いた鳴き声も、そんな時だったらしい。


わたしは父から教わった聖書の文句を思い出す。


-わが神、わが神、なにゆえわたしを捨てられるのですか。なにゆえ遠く離れてわたしを助けず、わたしの嘆きの言葉を聞かれないのですか。

 (My God, My God, why have You forsaken Me? Why are You so far from helping Me, And from the words of My groaning?)

 (詩篇22篇 (マタイ27:46節))


 原語で「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」から始まるその一説をわたしは懐かしく思い出した。

神の子”イエス”が父に断絶され、十字架に掛けられて苦しみの中で叫んだ言葉とされている。

(しかし苦しみの後、イエスは再び神を賛美する。死の恐怖よりも尊い信仰を悟ったのだ)


 わたしがそんなふうに話していると、子犬の”イエス”がきゅうんと鳴いた。

(この子犬は、何かを感じたんだわ。そんなふうにわたしは思ったの)


わたしはイエスを抱きしめ、震える身体に暖かい息を吹きかけた。


イエスが嬉しそうにわたしの顔を舐める。(結局、イエスは家に帰るまでずうっとわたしの顔を舐め続けていた)


 坂東の運転する軽自動車の窓から、大きな夕陽が覗いていた。



 そうして、わたしとイエスの生活が始まったのよ。


挿絵(By みてみん)


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