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【捨て犬・イエス】  作者: シュリンケル
8/20

8.殺処分・イエスの危機

 「あの泣き声は?」 わたしは職員のおじさんに尋ねる。

(子犬の鳴き声がわたしの耳に張り付いた)


「犬舎から聞こえるようですね」 とおじさんは答える。


引き取り手のない犬達を”収容”している場所なのだと言う。



 そこを見たいわ。とわたしは言った。



---



 剥き出しのコンクリート。

壁の上方に開けられた小さな窓。

とても淀んだ空気。

(そこには犬の姿は見えなかった)



 職員のおじさんが案内してくれたその場所は、牢屋だった。



鉄格子に背を向けて、設置されたスチール製の机。その上でラジオが音楽を奏でている。


机に座った職員の二人がわたし達に振り向く。


あ、と小さく驚いたのは坂東だ。



 こんにちは、とお辞儀をする同僚の加藤さん。


どうも、とお辞儀をする坂東。(とても困ったような顔をしている)



 おじさんが見学の旨を説明してくれる。

わたしは二人に会釈した。



 「子犬はどこですか」とわたしは聞く。

「さっきまで鳴いてた子犬は?」



職員の加藤さんがわたしに答えた。(坂東は目を伏せていた)

「これから処分されるところです」


今朝、残りの犬達は殺処分が決定したのだそうだ。

地下室で処置されるところだと加藤さんは言う。



 「坂東!わたし、その犬に会わなくちゃいけないの!」

わたしは唐突に大声を出していた。



職員さんたちがびっくりした顔でわたしと坂東を見つめる。

「知り合いでしたか」と加藤さんがつぶやく。


黙っていてごめんなさい。とわたしは謝る。

「でもお願い。ワンちゃんに会わせて」 わたしは彼らに頭を下げた。



 坂東がとても真剣な顔をしてわたしを見つめ、そしてわたしの手を握り・・・走り出した。


「おい!ちょっと坂東よぉ!!」後ろで加藤さんが叫ぶ。しかしわたし達は走り続けた。



---


 わたし達は地下室のドアを開けた。


そこには、収容所(監獄)よりも一回り小さな部屋があった。

犬たちは、鉄製の扉の向こうに詰め込まれている最中だった。(とてもたくさんの犬達が鳴いている)


 わたしはその瞬間に理解した。

犬達が死の恐怖に怯えていることを。

全ての犬達を救う事などできないことを。



 そして坂東が犬達の中から一匹のジャックラッセル・テリアを抱きかかえた。

わたしは残りの犬たちに頭を下げる。ごめんね、と心の中でつぶやく。


 地下室の職員さん達にも頭を下げて、わたしたちは階段を上った。



 わたしは怖かった。

あの部屋が。

そこで処置される全ての動物たちの悲劇が。

わたしは子犬を抱きかかえたまま、全身の震えが止まらなかったのだ。


坂東が心配そうにわたしを覗き込み、頭をなでる。


 わたしが流す涙が、子犬の頭に落ちる。


そして子犬がわたしの顔を舐めた。

涙をなめた。


 わたしの涙は止まらなかった。



挿絵(By みてみん)


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