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【捨て犬・イエス】  作者: シュリンケル
5/20

5.ドンの教えと神の教え

 ドンが教えてくれたこと。


むやみに吠えない。

むやみに鳴かない。

おしっこをする時はよく嗅ぐこと。(色んな情報が詰まっているから)

うまくいかない時には辛抱強く待つこと。

危ないと感じたらしっぽを丸めて静かに逃げること。

今日を生きていることに感謝すること。

そして・・・生きる希望を最後まで捨てないこと。


 ドンはとても優しい目で僕を見つめて、それらのことを教えてくれたのだ。


---



 それは厳しい冬の寒さが止み、つかの間の陽気に包まれた日だった。


監獄の中で、僕はドンの背中に守られていた。



 鉄格子の向こうでは、看守・バンドーとカトーが世間話をしている。

 

「なあカトーさん」とバンドーが話しかける。

「家庭を持つってどんな感じなんだろう?」


カトーは珍しいものを見たような顔をバンドーに向ける。

「どうしたんさ、そんな事聞くなんて。独身主義のバンドーちゃんよ」


ん、ちょっとね。と言ってバンドーは口ごもった。


しばらくの間、バンドーがラジオをいじり、いくつもの番組が断片的に流された。



 「なんかあったんか?」とカトーが聞く。


うーん、と唸ってバンドーは顔を上げる。


「好きな女が出来たんだ」 

バンドーがつぶやく。

「俺にはもったいないような女なんだ」


ふーん。とカトーが鼻息まじりに相槌を打つ。


「でも」とバンドーが再び口を開く。

怖いんだ。とバンドーは言った。



なにがだよ、とカトーが聞く。


うーん。

コンクリートが剥き出しの室内にバンドーのため息が響く。


 そしてバンドーは話し始めた。


彼女の素朴さと優しさについて。

たとえ冷たい雨に打たれたとしても、優しく温めてくれるその人柄を。

彼女はもっとバンドーを知りたいと言う。

バンドーの仕事を見てみたいと言う。

それが怖いのだと、バンドーは言う。


「それってどうよ?」

バンドーが監獄に目を向ける。


辛そうに、僕達を見つめる。


「動物愛護センターは・・・動物を殺すだろ」

そう言うと、バンドーはタバコに火を点けた。



 看守達のラジオからその言葉が流れたのは、その瞬間だった。



-わが神、わが神、なにゆえわたしを捨てられるのですか。

-なにゆえ遠く離れてわたしを助けず、わたしの嘆きの言葉を聞かれないのですか。



 その言葉は「聖書・詩篇22篇」の一節なのだとラジオは伝えていた。

神の子・イエスが父(神)に断絶され、十字架に掛けられてイエスが叫んだ言葉。そんな風にラジオは伝えていた。



 僕は・・・その言葉に反応した。


僕は抑えきれずにきゅんきゅんと鳴いたのだ。

看守たちが驚いた顔を僕に向けていた。


 鉄格子の向こうで燃えるストーブに掛けられたやかんから、激しく湯気が湧き出していた。


挿絵(By みてみん)


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