3.死の予感
監獄の中で、誰よりも小さく弱い存在の僕のことを、周りの犬達は威嚇すらしなかった。
それは何故か?
答えは死にかけていたからだ。
呼吸は細くなり、痛みの感覚すら遠くなっていた。
僕の口の中には常に不吉な鉄の味がしていたし、身体からは蚤すらも逃げ出していた。
(死に行く生き物には蚤すらも寄り付かないのだ)
看守・カトーの予想(すぐに死ぬだろう)は実に的を得ていたのだ。
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「さあみんな、朝だよ!」今日も一人の看守が鉄の桶を叩いて歩き回っていた。
それは、朝ごはんの合図でもある。
周りの犬達がそわそわと起き上がり、鉄格子に集まる。
僕は起き上がろうにも身体が鉛のように重たくて、そのまま丸くなっている。
でもお腹がすいたな、と思った僕は起き上がろうとした
その時だ
どすん、と僕に一匹の犬がもたれかかる。
どすん、ともう一匹の犬が反対から座り込む。
僕は起き上がる事もできないままじっとしていたんだ。
やがて鉄格子の向こうから看守達が食事を持ってくる。
(いい匂い!)
だけど僕の両側には大型犬がもたれかかり、僕は動けなかった。
仕方なく、僕はみんなの食事の音をぼんやりと聞いていた。
看守達は鉄格子の一部をぎぃぃっと開けた。
僕の両側にもたれた犬達が身体を緊張させていた。
(僕はもたれかかる大型犬の後ろからその光景を見ていた)
必死に食べまくる犬達を、看守はしばらく眺める。一匹ずつ、見比べては指を刺して歩く。
そして監獄にいる半数近くを、看守達は監獄から連れ出した。
(散歩に行くのかな?と僕はぼんやりと見ていた)
そうして犬達は違う場所へと移動して行く。-それきり彼らは戻っては来なかった。-
その後、看守達は隣の監獄でも同じ作業を繰り返していたようだ。
僕を両側から抑え付けるように座り込んでいた大型犬達は、大きくあくびをするとようやくその場を離れた。
僕が大型犬たちを見上げる。
彼らが僕を見下ろす。
『ご飯を食べな』 大型犬の一匹が僕に言う。
僕はよたよたと歩き、わずかに残ったごはんを食べた。
お腹は空いているのに、僕は食べた後に吐いてしまう。(固形物を身体が受け付けないのだ)
僕が吐いたごはんを、さっきの大型犬の一匹がすかさず食べた。
何度も噛み砕いて・・・僕の前に吐き出した。
『これを食え』と彼は言った。
僕は、それを食べた。(今度はなんとか飲み込めた)
その大型犬は僕の耳の匂いをしつこく嗅いで、何かを納得したかのようにふんっと鼻息を飛ばして言ったのだ。
『お前は生きろ』 と