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【捨て犬・イエス】  作者: シュリンケル
14/20

14.イエスの笑顔

 わたしの住んでいるマンションには二つの利点があった。


音楽とペットに寛容であることだ。


防音効果を施した事でそれらを許容できたのだろう。

(なんにしろ、イエスにとっては幸せなことだったのだ)



 わたしは仕事柄、家でもピアノを弾く。

(前にも言ったけれど、わたしは結婚式場の専属ピアニストなの)


まさかペットまで飼うとは考えもしなかったけれど、おかげでイエスと暮らせると言うわけなのよ。


それに・・・イエスはピアノも好きだった!

(それはわたしたちが暮らす上でとても大切なポイントだったの)



 それからわたしは、大切な報告をしなければならなかった。


それは父。

わたしの気ままな生活を応援してくれる父。


怒ると怖い人だけれど、大事なところでは頼りになる。

大切な事だけは報告するのがわたしたち親子の約束なのだ。


---


 プルルル・・・その夜わたしはイエスを膝に抱き、父に電話をかけた。


「もしもし」 低い父の声。


あたしよ、パパ。と答えた瞬間、父の口調はコロっと変わる。

「エリー!元気か?わしゃあ寂しいぞ!」 相変わらず父はひょうきんだ。

わたしと話すといつも広島弁丸出しなの。


 仕事中の父はとてもいかつくて怖い人らしいけど、わたしにはちょっと想像がつかない。

うわさによると仕事場ではクールでスマートなのだとか。(標準語しか使わないらしい!)


「元気よ。パパは元気?仕事は順調?」 これがわたしとパパのいつもの挨拶。


「うーん。元気かのう・・・。ダメかもしれんのう。エリーの手料理でも食べん限りは・・・ダメかもしれんのう」 これもいつものパパの口癖。


 父は数年前から都市銀行の頭取として頑張っているらしいけど、わたしの前では仕事の話なんてほとんどしない。

ほんとに仕事大変なのかしらと不思議に思うわ。



 ひとしきり父のおふざけに合いの手を入れた後で、わたしは本題を話した。


動物愛護センターでの出来事からイエスを引き取った事までを。

「わたし、間違ったかしら」 と聞いてみる。


「エリー」 しばらく黙った後に父は口を開いた。

「わし・・・嬉しいよ」

そして父は言う。「さすがはわしの娘じゃ!エリーは正しい事をしたんじゃけえね!」


次の休みに早速見に行くよ、と父はなんだか感激しながら言って電話を切った。


 わたしの膝の上で、電話の内容を心配そうに聞いていたイエスの頭を撫でる。

電話をテーブルに置き、わたしはイエスの鼻先に顔をくっつけて「これで心配はなくなったわ」とささやく。


わたしの言葉が分かったのか、イエスはちぎれそうなほどシッポを振り、わたしの顔を舐めた。


「あなた、わたしの言葉がわかるのかしら?」


わたしの言葉を理解したかのようにイエスは大きく頷いた。何度もなんども。


 そしてわたしは気がついたのだ。

イエスはにっこりと笑っている!


「あなた笑ってるわね」 とわたしもつられて笑顔になる。


 窓の外で明るく昇った満月もなんだか笑っているようだった。


挿絵(By みてみん)


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