12.家族の始まり
あの日から、”イエス”はわたしの家族となった。
動物愛護センターから坂東の車に乗って、わたしの住むマンションに連れ帰ったあの日。
帰り道に見かけたペット用品専門店で、”イエス”は坂東からささやかなプレゼントを贈られた。
犬用のトイレ。
寝床には暖かい毛布。
水飲み用の入れ物。
ごはんの入れ物。
散歩用のリードと胴輪。
食べ物には缶詰やカリカリのドッグフードを。
(食べ物は自炊でも可能だと教わったわ)
帰り際に渡された、イエスより大きな”ぬいぐるみ”。(これはイエスの一番お気に入りになったの)
坂東はわたしに言った。
「ありがとう、エリー」 俺はエリーを誇りに思うよ、と彼は言ったのだ。
でも、と言いかけるわたしの事をイエスと一緒に抱きしめる坂東。
「たとえ一匹でも、エリーは救えた」
その言葉が分かったのか、わたしと坂東の顔をイエスがぺろぺろと舐めた。
玄関先でイエスを抱いたまま坂東を見送り、わたしは空を見上げた。
空には三日月が浮かんでいた。(明るく密やかに輝いていた)
-ベルガマスク組曲 第3曲「月の光」 (ドビュッシー)-
わたしの中で、曲が流れ始めた。
イエスはわたしの顔を見つめ、そして三日月に顔を向けた。
風が吹き、わたしとイエスは見つめ合う。
そうしてわたしたちは、我が家に戻ったのだ。
三日月に見守られて。