1.プロローグ
※このお話はフィクションです。多くは筆者の推測によるものです。
(しかし、失われる命を思えば真実に近い部分もあると思えるのです)
-わが神、わが神、なにゆえわたしを捨てられるのですか。
-なにゆえ遠く離れてわたしを助けず、わたしの嘆きの言葉を聞かれないのですか。 ※
(My God, My God, why have You forsaken Me? Why are You so far from helping Me, And from the words of My groaning?)
※聖書・詩篇22篇より
堀の外にはごうごうと音を立てて雪が吹きすさび、コンクリートに囲まれ暗くじめっとした監獄の床で、僕は死の淵を彷徨っていた。
ここは寒い。
何も考えられないほど。
(監獄の寒さの下では何もかもが損なわれるのだ。)
僕の名は”イエス”。
看守の人たちの言うところでは、そういうふうに呼ばれている。
見た感じ、生まれて1ヶ月じゃないかな? と看守のバンドーが言う。(優しい目で)
なんだかすぐに死んじゃいそうだね、と看守のカトーが言う。(冷たい声で)
ジャックラッセルテリアにはこの冬も監獄も辛すぎる、と彼らは言うのだ。
(僕は震えながら彼らのささやく声を聞き取る)
僕はいつ生まれたのか、よくわからないと彼ら(看守)は言う。
僕が意識を感じたのは、この監獄が最初だ。
(その前の事は、おぼろげな記憶だけが断片的に残っている)
---
僕はこの監獄で目覚めて、初めて意識が芽生えた。(と思う)
それは突然に起こったのだ。
「さあみんな、朝だよ!」一人の看守が鉄の桶を叩いて歩き回る。
その声が言葉となって、僕の耳に突然届いた。
僕は監獄の壁の右上にくり抜かれた窓から射し込む一筋の”光”を感じたんだ。
-これが”朝”の光。僕はそう感じたんだ。
光は真っ直ぐに僕の汚れた身体を柔らかく包み、じんじんとその温もりを伝え始めた。
僕はじっとその温もりを受けた。(どのみち、動けなかったんだけれど)
それは不思議な感覚だった。
その光は僕の体中の痛みや痒みを癒し、生きる希望を与えてくれたのだ。
僕には見えたんだ。
光の中に、小さな小さな生き物が見え隠れしているのを。
(その小さな生き物はぷるぷると震える-震えながら光を発している)
彼らは僕に言う=僕の心に直接伝えてくる。
彼らは”愛”そのものなのだと僕に伝えてくれたのだ。
やがて、彼らの意志が僕の中にゆっくりと染み込んでいった。
光と共に。