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1.アイドルなんか、できっこない


駅前は、夕方の騒めきでいっぱいだった。

改札を出る人の流れに、呼び込みの声、遠くで鳴る発車メロディ。

その中で彼は一人、立ち止まっていた。



――今日も、空振りだ。



プロデューサーになってまだ日が浅い。

名刺の肩書きだけが、やけに重たかった。


(スカウトって、こんなに難しいんだな……。)


声をかけては断られ、笑顔を向けられても、次の瞬間には人波に消える。

"才能を見抜く目"なんて、どこにもない気がした。


そんなときだった。


改札の柱にもたれかかるようにして、

一人の女の子がスマホをいじっているのが目に入った。


明るい色のパーカー。

ラフなスニーカー。

でも、何より目を引いたのは――

ふとした瞬間に浮かぶ、無防備な笑顔だった。


作り笑いじゃない。

誰かに見せるためでもない。

ただ、楽しい動画を見ているだけの、自然な笑顔。


(……あ)


その瞬間、理由もなく足が勝手に動いた。


「あ、あの!」


女の子が顔を上げる。

少し警戒した目。


「……なに?」


名刺を差し出す手が、ほんの少し震えた。


「突然すみません。

えっと、僕、芸能事務所で……アイドルのプロデューサーをしていて」


次の瞬間。


「は?」


間髪入れず、笑われた。


「アイドル?あたしが?無理無理無理!」


手をひらひら振って、即答。


「あたし、そういうのじゃないから。

顔も普通だし、歌もダンスも知らないし。そもそも――」


彼女は、少しだけ目を伏せて言った。


「アイドルなんか、できっこないだろ。」


その言葉は、拒絶というより、諦め切っているように聞こえた。


彼は、言葉に詰まった。


『才能があります』

『絶対に輝けます』


――とは、言えなかった。


そんな無責任なこと、言えなかった。


代わりに出てきたのは。


「……衣装、だけでも」


「……は?」


「衣装、着てみませんか。

オーディションじゃなくて、契約でもなくて。

ほんとに、ただ……お試しで。」


女の子は、きょとんとした顔で彼を見る。


「着たからって、何が変わるの?」


「……何も、変わらないかもしれません。」


正直に言った。


「でも、着るだけ。着たらすぐ帰ってもいいです。

無理だと思ったら、その場でやめていい。」


沈黙。


ホームに入ってくる電車の音が、遠くで響いた。


やがて、彼女は小さく笑った。


「なにそれ。ずるくない?」


「……え?」


「断りづらいし、気になっちゃうじゃん、そういう言い方。」


でも、少し考えてから、肩をすくめる。


「……まあ、いいよ。」


顔を上げて、彼女は言った。


「お試しで!アイドルってやつ、してやるよ!」



彼はこの瞬間、まだ知らなかった。


この出会いが、

自分のプロデューサー人生のすべての始まりになることを。






『彼はこの瞬間、まだ知らなかった』ってフレーズを使いたかっただけなのダサ過ぎる、蛇足文です。

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