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薔薇のオルゴール 〜次はあなたが傷つけばいい〜  作者: Ryo-No-Suke


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47/50

造られた太陽〜イケメンマネージャー〜


 夜の銀座。そこは戦士たちが羽根を休め、ひとときの安らぎを得る街。しかし心弱き者がその優しさに溺れると、自らの手で破滅を手繰り寄せる。

 夜の銀座の中でも特別な輝きを放つクラブ華月。成功者というところまでは届いていない者でも、そこに安らぎを求めてやって来る。

 国土交通省 都市開発室室長 谷田部恒夫。彩の国高速鉄道未来都市化計画の責任担当者となり、一度重森に連れられてこの店を訪れた。以来野薔薇に魅せられ、週に一度ここに通う常連客となった。

「いやぁ、野薔薇が隣にいると、シャンパンの味も違うね」

「あら嬉しい。でも恒夫さん、これは良いシャンパンだからよ」

 埼玉県の郊外に一戸建てを持ち、妻とひとり息子にあしらわれながらも威厳を保ち、国交省一筋に務めてきた谷田部。銀座から自宅までは一時間半ほど掛かる。今日も終電ギリギリの二十二時半過ぎまで野薔薇を満喫し、名残りを残しながら帰路に着いた。

 電車の中でスマホを開き、カードの利用明細を確認する。

「三十五万……」

 ひとりで華月に行ったのは今日で三回目。一回が十万超え。

「ま、何とかなるだろ」

 シートに座る谷田部は、静かに目を閉じた。


 柿崎が夜の銀座を歩いていると、見覚えがある中年とすれ違った。

「あれ? あの人確か、国交省の……」

 一度立ち止まって振り返ったが、再び歩き出してすぐ前のビルに入った。

 閉店一時間前のクラブ華月。エレベーターを降りてきた柿崎に黒服が声を掛ける。

「いらっしゃいませ。確か、重森さまと起こし頂いた……」

「柿崎です。野薔薇ちゃん、指名できる?」

「確認致します。どうぞ中へ」


「こんばんは、柿崎さん」

 野薔薇がニコッと笑い、柿崎の隣に座る。その笑顔に柿崎は、一瞬意識を奪われそうになった。

「(この女はヤバいっ!)」

 記者として多くの人間を見定めてきた柿崎の直感が警鐘を鳴らす。

「どうぞ」

 カランッという氷の音に我に返った。

「どうも。今入口の所で国交省の谷田部さんとすれ違ったけど、よく来るの?」

「ええ、たまに。乾杯しましょ」

 野薔薇はグラスを差し出した。


「この間近藤さんが野薔薇ちゃんを見て"美冬"って言ってたよね?」

「言ってましたわね。その方に似てたのかしら?」

「いやいや、貴女ほどキレイな人はそうはいませんよ」

 そう言いながら柿崎はプリントアウトした写真を取り出し、野薔薇に見せた。

 ほんの少し、野薔薇の眉が動く。

「取材で仲良くなりましてね」

 それは、好美と景子と萌の三人がカメラに向かってにこやかにポーズをとっている写真だった。

 柿崎は野薔薇に顔を近づけ、小声で話す。

「そんなに警戒しないでよ、美冬さん。俺は別に近藤の仲間ってわけじゃない。むしろああいう胡散臭い奴はあまり好きじゃないんですよ」

 野薔薇は少し間をあけて、ウフッと笑った。

「面白い方ね、柿崎さん。あなたの目的を教えてもらえるかしら?」

「興味」

 野薔薇の質問に短く即答する柿崎。

「興味?」

「あと、小遣い稼ぎかな」

 柿崎は水割りをゴクッとひと口飲んだ。

「近藤は一体どんな手を使って今にたどり着いたのか、とても興味があるんだよね」

 グラスを置き、野薔薇を横目で見る。

「それは美冬さん、あんたも興味がある事なんじゃない?」


「あんたは重森に近づくためにこの店に入った。重森に取り入ればプロジェクトに関わる重要人物ほぼ全員に会えるだろうからな。その目的は……」

 柿崎の目がキラリと光る。野薔薇はその目を合わせない。

「スパイを探すため……だろ?」

 野薔薇は目を伏せ、口元に笑みを浮かべた。

「この短期間でそこまでの仮説を作り上げたのは凄いわ。辰雄さんが気に入るわけね」

「そりゃどうも。そのスパイってやつを見つけてさ、重森常務にタレコめば、俺も点数と小遣いが稼げるってわけでさ。あんたと同じ目的を持ってるわけよ」

 柿崎は水割りのグラスに口をつける。

「スパイは須山朱莉よ」

「ブハッ、ゲホッ、ゲホッ……」

 驚きでむせてしまった。

「な、何だって? そりゃ本当かよ? 一発アウトじゃねぇか!」

 野薔薇は余裕の笑みを浮かべている。

「辰雄さんは野心家が好きなの。野心のために手段を選ばない事を、"実力"と認めてるわ。近藤の情報源が須山朱莉だということも、気付いてるんじゃないかしら。でもそれも、自分の隙をついて朱莉に取り入った近藤を、アッパレくらいに思ってるわ」

 おしぼりで口を拭いながら、柿崎は話を聞いた。

「じゃ、じゃああんたは何をやろうとしてるんだよ?」

 野薔薇はゆっくりと答える。

「人に言えない秘密は、何があってもバレてはいけない。もしスキャンダルに潰されるようなら、それはそこまでの器でしかない。これが辰雄さんの考えね」

 なるほどねと、柿崎が笑う。

「なぁ、俺を情報屋として雇わないかい? 意外と良い腕だぜ」

「辰雄さんの手を噛む事になるわよ?」

「ハッ。俺は別に重森さんに飼われてるわけじゃないよ。ただ雇い主がひとり増えるだけさ。それに……」

「それに?」

「重森さんの仕事は金のための仕事、あんたの仕事は俺の興味の仕事だ。どっちを優先すると思う?」

「あなたなら、興味の方でしょうね」

 柿崎は満足げに笑う。

「じゃ、契約成立って事で……」

 柿崎は言った後にドキッとした。その時の野薔薇の笑顔は、今日見た中で一番美しく、一番危険な感じが漂っていた。


 高い空から太陽の熱が降り注ぐ。地上に届く熱は太陽が放つエネルギーのほんの一部である事を考えると、この世の支配者は人間ではないという事を思い知らされる。

 彩の国高速鉄道未来都市化計画の記者発表からおよそ一ヶ月が経った。

 週刊さきがけの特集記事を皮切りに、各メディアがレグルスをとり上げた。"取材は積極的に受けるように"と重森から指示を受けている貴之。見た目も良く、トークも割とイケている貴之は、"イケメン統括マネージャー"と呼ばれ、様々なメディアに登場した。その結果ビジネス界だけではなく奥様方の人気を得て、今や時の人となっていた。

「貴さん会社にいるの久しぶりっすね。俺、ひとりで寂しかったっすよ」

 営業部と島を分けたスマートシティ統括部だが、貴之と机を向かい合わせて二人だけの部だった。

「貴さんいないとめっちゃ寂しいっすよ。ヒマだし」

「おいおい、ヒマなんて土井ちゃんに聞かれたら殺されるぞ」

 関係業者や自治体との打ち合わせがひと段落すると、統括部の仕事もひと段落していた。だが正式採用が決まったシステム部は目が回るような忙しさだった。

 それからしばらく、圭介は左手で頬杖をついてマウスを操作している。

「圭介、今、何やってる?」

「ソリティアっす」

 貴之はプッと笑う。

「お前は素直でいいな。昼メシがてらちょっと出るか」

「あ、お供するっす!」

 圭介の表情がパッと明るくなった。

 

読んでいただき、ありがとうございます。

次の更新予定は2月5日です(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”

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