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薔薇のオルゴール 〜次はあなたが傷つけばいい〜  作者: Ryo-No-Suke


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46/50

夜に咲く薔薇


 三人が料亭にいる間に雨が降ったのだろう、地面が濡れていた。

「常務、すっかりご馳走になってしまいまして。ありがとうございます」

「いやいや、私の方が楽しませてもらったよ。君は実に愉快な男だな。なぁ、柿崎さん」

「いやはやまったく、取材の時はお行儀よくしてただけなんですね、近藤さんは」

 ほどよく酒が回り、ご機嫌な三人。女将が呼んでくれたタクシーに乗り込んだ。

「今日はとっておきの店に連れていってやろう」

 重森が運転手に行き先を告げ、タクシーが走り出した。


 タクシーを降りた三人は『クラブ華月』の看板があるビルに入った。

「うわっ、凄っ……」

 最上階でドアが開き、貴之は思わず声を漏らした。

「柿崎さんもここは初めてだっけ? 最近の私のお気に入りの店なんだ」

 席に通されると、すぐにママがやってくる。

「ママ、今日は次代を担う若者を連れてきたよ」

 重森がおしぼりで手を拭いながら言う。そしてママの後ろから野薔薇が。

 貴之が急に立ち上がる。少し驚いた重森が貴之を見上げると、まるで幽霊でも見たかのような顔をしていた。

「どうした、近藤くん? 野薔薇のあまりの美しさに驚いたのか?」

 そんな重森の言葉も聞こえていない。

「み、美冬……」

「ん? なんだね、知り合いかね?」

 野薔薇は美しさの中に余裕を浮かべ、

「人違いですわ。昔の彼女にでも似てたかしら……」

 笑いながら重森の隣に座った。


 人違いだと……? どう見ても美冬だぞ? 別人なのか……?


「どうしたんだ、近藤くん。バカに大人しいじゃないか」

 貴之はハッと我に返った。

「あ、いや、初めての雰囲気に少し飲まれてしまいました……」

「近藤くん、君はこれからもっともっと大きな舞台に立つ男になるんだぞ? こんな所で萎縮してちゃあいかん。お嬢さん、こいつにどんどん飲ませてくれ」

 貴之の隣に座るホステスが"分かりました"と微笑む。貴之も野薔薇を気にしながら自然に振る舞った。

「美冬さんね……」

 柿崎は貴之の様子を盗み見ながら、小さく呟いた。


 いくら飲んでも酔った気がしなかった。が、どうやらそれは気のせいだったようだ。貴之は激しい頭痛と共に目覚めた。

「痛ぅ……二日酔いなんて何年ぶりだよ……」

 胃薬と頭痛薬を一緒に飲み、シャワーを浴びた。

(俺が美冬を見間違うか? でも美冬が夜の銀座にいるのは考えられない。雰囲気もまるで別人だった……)

 頭からシャワーの湯を浴びながら、昨夜の事を思い出す。重森に煽られた事もあるが、複雑な思いからかなりハイペースで飲んだ。ただ意識はハッキリしており、酔って羽目を外したりはしていない。

「野薔薇があの店に入って二ヶ月。美冬が姿を消して二ヶ月半……仮に野薔薇が美冬だとしても、一体何のために……?」

 呟いてみたが、二日酔いのせいで頭が働かない。貴之はお湯の温度を上げ、頭から浴び続けた。


 七月下旬の遅い梅雨明けの後は、まさに夏全開だった。八月最初の金曜日である今日も、太陽は物凄い光と熱を地上に届けている。

 パリオリンピックが開幕し、居酒屋鳥っ子倶楽部でもその話題で持ち切りだったが、好美たちが座るテーブルは少し様子が違った。

「では、ビューティフル・ウインター救出作戦、第一回定例報告会を行います」

「ちょっと待って!」

 笑いがこらえきれなくなった景子が好美を止める。

「ビューティフル・ウインターって、美冬?」

 景子が笑いながら言うと、萌が"ああ"と納得をする。

「そうよ。開会の挨拶なんだから笑っちゃダメよ」

「笑っちゃダメよって、よく真顔で言えるわね」

 景子の笑いが止まらない。

「ああ、もう。あんたが笑うから台無しよ」

 三人は普通に"お疲れ様"と乾杯をした。


「調査っていっても、私たちの方は全然ダメ。安西萌は何か分かった?」

「ええ、一応調べてみました」

 萌が丸い大きなレンズのメガネを指先で正す。

「まず結論から言うと、貴之さ……」

「待った!」

 好美が萌の言葉を遮った。

「そこは容疑者Tでいこう」

 景子がまた苦笑いを浮かべたが、萌は話を続けた。

「容疑者Tは深井コンピュータの技術を盗んでいます」

「お、なんか証拠出た?」

 乗り出してきた好美に、萌は浮かない顔をする。

「それが……ハッキリとした証拠はなくて、状況証拠だけなんです」

 萌はレグルスの規模や現在までの実績、発表されているシステムの内容や特許など、公に出ている情報を徹底的に集めた。

「今回発表したシステムの技術説明を見ると、これまでレグルスで持っていた技術じゃとても追いつかないはずなんです。前に深井コンピュータにいた土井さんっていう技術者がいるんですけど……」

「容疑者Dね」

 好美が口を挟む。

「容疑者D、天才なんですよ。深井コンピュータのシステムにも触れている人だし、あの人ならうちのシステムを盗んで応用する事は可能です」

「それ、暴けないの?」

 景子が聞く。

「痕跡は消されているはずです。とんでもなく細かい仕事をする人なので、ミスは考えられません」

 三人は黙り込む。

「ここまで分かったのにねぇ……」

「でも、この先で出来ることが見つかりません……」

 そこに店員のアキちゃんが、右手にビールジョッキ三杯と左手に大皿に盛られた焼鳥を持ってきた。

「あれ? アキちゃん、焼鳥頼んでないよ?」

 好美が言うと、

「あちらのカウンターのお客様が……」

 言いながらアキちゃんはカウンターに顔を向ける。

 するとカウンターで一人で飲んでいる男がこちらを振り向いた。


 ラフなパーマヘアに無精ひげ、四十代前半の男。

「あんた知り合い?」

「知らないわよ」

「ナンパですか? これってナンパですか?」

 顔を近づけてヒソヒソと話す三人のテーブルに、その男はやってきた。

「ここの代金奢らせてもらうので、ちょっと座っていいですか?」

 恐怖なのか警戒心なのか、顔が引きつる三人。

「こ、こんなに食べれませんよ?」

 好美が少し強い口調で言った。

「やだなぁ、そんなに警戒しないでよ。ちょっと話を聞きたいだけだから」

 そう言って男はテーブルに名刺を置いた。

「週刊さきがけ……記者、柿崎?」

「あ!」

 景子が大きい声を出す。

「週刊さきがけってほら、あのジャイアントキリングの記事の……」

「ああ!」

 好美と萌も記事を思い出す。

「あ、嬉しいなぁ。記事、読んでもらいました? あれ、僕が書いたんですよ」

 柿崎は空いている萌の隣に座った。

 

読んでいただき、ありがとうございます。

次の更新予定は2月3日です(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”

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