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薔薇のオルゴール 〜次はあなたが傷つけばいい〜  作者: Ryo-No-Suke


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笑う月


 ゴールデンウィークは晴れた日が続いた。今日はその最終日となる五月六日。

「はぁ、連休も終わりかぁ。入っちまうとあっという間だな」

 美冬と旅行に行くつもりで取った十連休だが、結局ほとんど外には出ずに部屋で絵美と過ごした。

「いっぱいイチャイチャしたね」

 ダイニングテーブルのイスに座る貴之を背中から抱きしめ、はしゃぐ絵美。

「最終日くらいどっか出かけるか?」

 自分の首に巻き付く絵美の手を握り、聞いた。絵美はその手をほどき、

「んーん、お昼ごはん食べたら帰るよ」

 ニコッと笑った。

「え? 帰るの?」

「うん。寂しい?」

「あ、いや、そういうわけじゃないけど……」

 絵美が流し目で貴之を見て、貴之は目をそらす。

「お兄さんは? 出ていったの?」

 気になったわけではないのだが、黙っているのが気まずくなった貴之が聞いた。

「お兄さん? ……ああ、出ていったんじゃない?」

「(やられた。女狐め)」

 絵美の反応を見てそう思った。しかし貴之の口元には笑みがある。

「ね、お昼ごはんさ、貴さんの好きな生姜焼きに挑戦する」

 今度は貴之の前に回りこみ、明るく言う絵美。

「出来るだろ」

 貴之は上目遣いでそう言った。


 完全に絵美を見誤っていた。

 絵美に手を出した直接の動機は、圭介が美冬と二人きりで飲みに行ったことだが、周到な貴之はさすがにそれだけでは動かない。

 圭介に朱莉の事を打ち明けざるを得なくなった事で、圭介の弱みが欲しかった。絵美を自由に扱う事で圭介をコントロールするつもりでいた。計画通り絵美は貴之に落ち、いざという時にかなり使いやすい距離になった。

 ……かに見えた。


「美味しかった?」

 絵美が作った生姜焼きを完食した貴之に聞いた。

「美味かった」

 特に何かに秀でているわけではない。ここに来て二日間は、スーパーの惣菜を皿に盛っていた絵美。

「料理は得意って言っていいよね?」

 椅子に座る貴之を背中から抱きしめる。

 絵美は今まで、料理などほとんどしたことがなかった。貴之が家庭的な女が好きと分かり、レシピ動画を見ながら料理を始めた。レシピ動画の通りに作る事が出来る、そんな器用さを持っていた。

 その器用さを活かし、状況に合わせて攻め方を変えられる柔軟さが絵美の強みだった。更に社交的なので会話の幅も広い。目立つ能力ではないが、人の心を動かすには十分な能力である。

 貴之は後ろから抱きつく絵美に振り向き、肩越しに軽いキスをした。二週間一緒に過ごし、絵美に対する感情は変わった。だが、それが絵美に意図的に変えられた事には気付いていなかった。


「送ってくよ」

「んーん、大丈夫。ね、また来ていいでしょ?」

 身支度を整え、玄関で靴を履く絵美。

「おう。……あ、でも突然来るのはやめてくれよ」

「分かってる」

 答えながら貴之にキスをした。

「じゃあね」

「おう、気を付けてな」

 貴之と別れてエレベーターに乗った絵美は、ニヤリと妖しく笑う。

「聞き分けのいい女でしょう?」

 懐に入ってしまえばなんとかなる、そんな作戦ともいえない作戦だった。最後は約束通りにスっと引き、その時に貴之の態度が変わっていたら大成功。今回の結果には満足していた。

 エレベーターのドアが開く。

「欲しいものは手に入れるわ」

 そう言い残してエレベーターを降りていった。


 絵美が帰って急に静かになった部屋。

「これが普通なんだよな……」

 貴之は呟いた。

 絵美がいる間、美冬に連絡をしていなかった。そしてその間、美冬から連絡が来ていなかった事も気になっていた。

「コロナになってお袋が来てるって言っておいたからな」

 そう言って貴之はスマホを手に取り、美冬に電話を掛けた。

『お掛けになった電話は、現在使われておりません……』

 ……あれ?

 貴之はスマホを見ると、画面には"美冬"と表示されている。もう一度掛けてもやはり同じ結果だった。

「いや、まさかな……」

 ジワジワと焦りが込み上げてきた。


 圭介はお笑い芸人のYouTube動画で爆笑していた。

「あー、連休も今日で終わりかぁ。ま、ある意味結構笑った連休だったな」

 連休中、ほとんどYouTubeを観て過ごした。

 するとLINEの着信。

「絵美だぁ!」

『島根から帰ってきたよー。圭介くん、連休何してたの?』

「圭介くんはずっとYouTubeを観てました」

 そう言いながら返信文を作り、送信ボタンを押す。その直後に今度は電話の着信。

「わっ!びっくりした! ……ん? 貴さんじゃん」

 すぐに電話に出た。

「もしもし圭介? 悪ぃな、休みの日に」

「いえいえ、どうしたんすか?」

「美冬と連絡取れなくてさ。お前、なんか知らない?」

 貴之は珍しく焦っているようだった。

「えっ? 美冬さん……」

 圭介は迷った。

「貴さん、連休の頭に美冬さんに会ったっす。美冬さん、どこかで須山さんの事知ったみたいで、相談されたっす」

「なんだとっ?」

 

 圭介との電話を切り、考え込む貴之。

(朱莉さんの事がバレた? 一体どこから……?

 でも圭介の話では美冬は朱莉さんの名前を出したわけじゃないみたいだし、"貴之が浮気をしてるみたい"って言われた圭介が勝手に朱莉さんの事だと思い込んだ可能性もある。萌の事なら"浮気"とは言わないはずだ。だとしたらここに来たのか? ありえなくはない )

「どっちにしたって今のままじゃ対策の立てようがない」

 そう呟いた時、旅行から帰ってきた時に聴いたラジオの投稿ネタが頭に浮かんだ。

『突然姿を消すのが最強の復讐方法かもしれないね』

 パーソナリティの軽い口調が甦る。

 貴之はテレビのリモコンを壁に投げつけ、立ち上がった。


 美冬のマンションに着いた時は、太陽がだいぶ西に傾いていた。

『お掛けになった電話は、現在使われておりません……』

「ああっ、クソッ! 分かってるよ! 分かってるけど……」

 エントランスのインターフォンを鳴らしても反応がなく、集合ポストの美冬の部屋だった番号は"空室のため郵便物等を入れないで下さい"と、管理会社の名前で封印されていた。

「たった一週間で出ていったってのか?」

 住んでいたマンションまで引き払うとは余程の事だ。焦りがおかしな考えを起こさせる。

「もしかして絵美の手がかかった者に消された?」

 貴之は慌ててスマホを操作し、絵美に電話をかけた。

「もしもし絵美か? お前、美冬のこと何か知らないか?」

「貴さん? どうしたのよ、いきなり……」

 絵美の声を聞いたら、そんな事があるわけがないと正気が戻ってきた。

「あ、いや、美冬と連絡が取れなくなっちまってな。知らないならいいんだ。悪かったな」

 貴之は静かな口調で言い、電話を切った。


『四月三十日にご連絡を頂きまして、なんだかお急ぎのようですぐに退去されました。どこに行かれたかまでは、弊社では把握しておりません』

「そりゃそうだろうな……」

 無駄だと思いつつも、貴之は管理会社に問い合わせてみた。

(仮に朱莉さんの事をどこかで知ったとして、こんなに急いで姿を消すか? まずは俺を問いたださないか?)

 もしかしたらもっと前から気付いていて準備をしていた? そうも考えたが、絵美が押しかけてくる前の土日は二人でゴールデンウィークの予定を立てていた。あの時点で姿を消す準備をしていたとは思えない。

 貴之は以前美冬とばったり会った大宮に移動し、なんの手がかりもないままただ街をふらついていた。


 五月にしては強い光を放つ太陽が、西の空を鮮やかなオレンジ色に染めている。

「そう、美冬さん、いなくなったんだぁ……」

 貴之との電話を切った絵美は、嬉しそうに言った。

 まだ明るい空には、白い月がぼんやりと浮かんでいる。

「楽しくなりそうじゃない」

 これから夜の空を支配しようとしているその月も、何かを期待しているように見えた。

読んでいただき、ありがとうございます。

次の更新予定は1月25日です(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”

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