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薔薇のオルゴール 〜次はあなたが傷つけばいい〜  作者: Ryo-No-Suke


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ハンティング


 柏の葉キャンパスシティ。

 四葉不動産が中心となり、十年ほど前からスマートシティ化を進めている街である。まだ街全体には及んでいないものの、エネルギー利用の効率化、新たな交通手段の導入、スマートヘルスケアの実装などを成功させ、今後の展開が注目されている。

「へぇ、見事なもんだな」

 貴之がこの街を訪れるのは初めてだった。駅の周辺を少し歩いただけだがとても綺麗に整備されており、"未来都市"という雰囲気が感じられた。

 貴之が狙う大熊正商事の創業百周年プロジェクトも、彩の国高速鉄道沿線都市のスマートシティ計画だが、今日はここに下見に来たわけではない。

 時刻が十九時五分前になったのを確認すると、駅の改札口まで戻ってきた。そこで改札口から出てくる人を注視する。

 電車が到着する度に、たくさんの人の波が流れ出てくる。スーツ姿のサラリーマン、友達同士ではしゃぐ若者たち、寄り添い歩く恋人たち。

 その一人一人に目を凝らしながら、貴之は改札の外に静かに立っていた。

「来たな……」

 何回目かの人波の中にその姿を見付け、貴之は歩き出した。少し早足でその女性を追いかけ、声を掛ける。

「絵美ちゃん」

 振り向いた絵美が驚いた顔をした。

「貴さん?」

 絵美が柏の葉キャンパスシティに住んでいること、仕事で家に帰るのはだいたい十九時半くらいであること、土曜日が仕事であること。バレンタインデーに圭介が美冬と飲みに行ったと聞いてから、圭介から少しずつ絵美のことを聞き出していた。貴之を兄貴と慕う圭介は、絵美とあまり上手くいっていない自分を心配してくれていると思い、なんでも話した。

「どうしたんですか、こんな所で?」

「いや、今仕掛っている仕事の下見に来ててさ。ちょうど帰ろうとしたとこだったんだよ」

 絵美もピンと来たようで、

「ああ、圭介くんから聞いたやつかな? スマートシティの仕事してるとか……」

 と、合点がいく表情をした。

「せっかくだからメシでもどう?」

 あくまでも偶然会ったように貴之が誘うと、

「いいですね、行きましょ」

 そう言う絵美は嬉しそうにも見えた。


 柏の葉キャンパスシティ駅の線路高架下に並ぶ赤ちょうちん。昭和レトロな雰囲気が漂うそこは"柏の葉ちょうちん横丁"と呼ばれ、柏の葉キャンパスシティの名物横丁である。

「いいね、ここ。圭介とも来るの?」

「いや、地元の友だちとはよく来るけど、圭介くんと来たことはないです」

 答えが分かっていた貴之。

「ええ? なんで? 絶好のデートスポットじゃん」

 言った後に"少し芝居がかったな"と思い、すぐに次の言葉を続けた。

「圭介とは、あんまり上手くいってないの?」

 絵美はフッと真顔になり、何も答えずにコップのふちを指でなぞった。貴之はそれ以上は言葉を続けない。

「なんか、よく分かんないんですよ」

 視線は上げずにコップをいじりながら絵美が呟く。

「野球やってる時の圭介くんは本当にカッコよくて、みんなをグイグイ引っ張っていく感じだったんですよ。一緒にいる時もおもしろくて、すっごい優しくて……」

 そこまで言って少し考える。

「ま、おもしろくて優しいのは今もなんですけど……」

「けど?」

 貴之はうつむく絵美の目を覗き込むように聞いた。絵美はチラッと視線を上げて貴之の目を見た後、瞬きをしながらまたうつむいた。

「なんて言えばいいんだろ……」

 絵美から次の言葉が出て来ないだろうと察し、貴之が口を開く。

「圭介さ、絵美ちゃんと会っても絵美ちゃんがすぐ帰っちゃうって、悩んでたんだよ」

 絵美は少し強めに貴之を見た。

「なんか最近、誘いたいくせに誘えないのを見てるとイライラしてくるんです!」

 貴之はフッと笑う。

「なるほどね。あいつ、本当に女にはだらしねぇからなぁ」

 そう言ってコップ酒を口に含み、あっと気がついたようそれを飲み込む。

「この場合の"だらしない"は下半身の話じゃないよ」

 そう付け加えた。絵美の表情が緩む。

「そっちの心配はしてません。圭介くん、あんな感じだから」

 それから貴之は圭介をネタにした冗談を連発し、絵美はケタケタ笑う。

「アハハ……ああ、可笑しい。貴さんおもしろい」

 絵美は小指で涙を拭いながら笑っていた。

「圭介くんも、貴さんくらい自然に誘ってくれればいいのにな」

「まぁ、恋愛に関してはまだ中学生レベルなんだろな。絵美ちゃんが大人にしてやれよ」

「図体だけはデカイのにね」

 そう言ってまた笑う絵美を、貴之は微笑みながら見つめる。

「(今日はこの辺にしとくか)」

 そう考えた貴之。

 柏の葉キャンパスシティ駅を出たつくばフューチャーラインが、二人の頭上を通り過ぎていった。

 

 すっかりご機嫌になった絵美にカラオケに誘われたが、今日は電車があるうちに帰らなきゃならないといいわけを付けてタクシーに乗せた。

 本当は今日ホテルまで連れていく気でいたが、昼間に萌とホテルに行ったせいか、気が乗らなくなったのでやめた。萌とは最後までいかなかったが、何故か今日はその気になれなかった。

「ま、ここまでやっときゃ、あとはいつでもいけるだろ」

 営業でも"落とせる時に落とす"をモットーにしている貴之らしからぬ事を呟く。その時、LINEの着信音がした。

『貴さん今日はありがとうございました。すっごい楽しかった! また誘ってくださいね♡ 今度は私から誘っちゃうかも……』

 貴之の口元に笑みが浮かぶ。

「ネンネちゃんも欲求不満女もチョロいもんだ」

 圭介から絵美の相談を受けた時、絵美は煮え切らない圭介に少し苛立っているのだろうと予想はついていた。バレンタインデーに圭介が美冬と二人で飲みに行ったと聞いた時、絵美をたぶらかす事を決めた。

『絵美ちゃんめっちゃ笑うから俺も楽しかったよ。笑ってる絵美ちゃん可愛かったし(笑)また行こうね。おやすみ♡』

「悪いな、圭介。でも……」

 LINEの送信ボタンを押す。

「始めたのはお前の方だからな……」

 貴之の瞳が怪しい光を放った。

読んでいただき、ありがとうございます。

次の更新予定は1月11日です(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”

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