第3章:アルトハイム領での新生活
アルトハイム領は、王都から馬車で二日の距離にある小さな領地だった。
「質素なところで申し訳ありません」
レオンが恥ずかしそうに言ったが、私は感動していた。
領地は確かに小さいが、すみずみまで手入れが行き届いている。農地は美しく整備され、街並みも清潔だった。
「レオン様、この領地はとても良く治められていますね」
「ありがとうございます。前世でエリザベート様の経営論を学んだ成果です」
彼が微笑んだ。
「『領民の幸せこそが領主の幸せ』というエリザベート様の言葉を胸に、この三年間頑張ってきました」
私はゲームにそんなセリフがあったのかと思ったが、きっと隠しルートの内容なのだろう。
「でも、まだまだ改善の余地があります。エリザベート様のお力を借りたいのです」
執事のハンスに案内された執務室で、レオンは領地の資料を広げた。
「現在の年間収支は微黒字ですが、災害に備えた蓄えが不足しています」
私は資料に目を通した。確かに財政は健全だが、成長性に課題がある。
「特産品はありますか?」
「はい。この地域の織物と、山で採れるハーブです」
「販路は?」
「近隣の領地と、たまに王都の商人が買い付けに来る程度です」
私は前世のコンサルタント経験を活かして分析した。
「まず販路拡大から始めましょう。王都に直販ルートを構築します」
「さすがエリザベート様! 僕もそう思っていました!」
レオンの目が輝いた。
「でも、どうやって王都の商人とのコネクションを作るのか分からなくて……」
「私に任せてください。公爵令嬢としての人脈を活用します」
その後一週間、私は手紙を書きまくった。元婚約者の件で同情してくれる貴族たちに、アルトハイム領の特産品を紹介したのだ。
結果は上々だった。
「エリザベート様! 王都の三大商会すべてから引き合いがありました!」
レオンが興奮して報告した。
「特に織物は『これまで見たことのない美しさ』と絶賛されています!」
「それは良かった」
私は微笑んだ。
「次は生産体制の拡充ですね」
「はい! もう準備を始めています!」
彼の行動力には感服した。まるで私の考えを先読みしているかのようだ。
「レオン様は本当に優秀ですね」
「エリザベート様のおかげです。僕一人では何もできませんでした」
彼が恥ずかしそうに笑った。
「でも、エリザベート様と一緒だと、何でもできる気がします」
私の心が温かくなった。彼といると、とても自然体でいられる。