第1章:婚約破棄と意外な救世主
「エリザベート・フォン・ローゼンベルク! 貴様との婚約を今ここに破棄する!」
王宮の大広間に、第一王子アレクサンダーの声が響き渡った。
私────エリザベートは、この展開を冷静に受け止めていた。なぜなら、私はこの世界が乙女ゲーム『薔薇と剣の学園物語』の世界であり、今まさに悪役令嬢の婚約破棄イベントが発生していることを知っているからだ。
前世の私、田中美咲(28歳・独身・経営コンサルタント)の記憶によれば、ここで私は平民出身のヒロイン・リリアをいじめた罪で糾弾され、領地に追放される運命にある。
「理由を聞かせていただけますか、アレクサンダー殿下」
私は冷静に問いかけた。どうせお決まりのパターンだろう。
「決まっている! 貴様はこの清楚で美しいリリアに、日頃から嫌がらせを──」
「待ってください!」
突然、観客席から声が上がった。
振り返ると、一人の青年が慌てたように席を立っていた。茶色い髪に緑の瞳、地味な服装の──確か隣領のモブ子爵だったと思う。
「レオン・フォン・アルトハイム? 貴様に何の関係が」
アレクサンダーが眉をひそめた。
「エリザベート様は無実です!」
レオンと呼ばれた青年が、きっぱりと宣言した。
「真犯人は別にいます! 証拠もあります!」
え?
私は思わず目を見張った。これは完全に想定外の展開だった。ゲームにこんなイベントはなかったはず。
「何を言っている! 証拠ならここにある!」
アレクサンダーがリリアの持つ小箱を指差した。
「この中にはエリザベートがリリアをいじめた証拠の手紙が──」
「それは偽造です」
レオンが観客席から降りてきた。
「その筆跡鑑定をしてください。エリザベート様の筆跡とは明らかに違います」
「何だと?」
「それに」
レオンは懐から一枚の紙を取り出した。
「こちらが真犯人の証拠です。侍女メアリーの証言書です」
私は驚愕した。メアリーは確かに私の侍女だが、なぜ彼が?
「メアリーは金で買収され、エリザベート様の筆跡を真似た偽の手紙を作らされていました。買収したのは──」
レオンがゆっくりと振り返る。
「マーガレット・フォン・シュナイダー嬢、あなたです」
観客席にいた伯爵令嬢が青ざめた。
「ば、馬鹿な! 証拠はあるの!?」
「あります」
レオンは別の書類を取り出した。
「あなたがメアリーに渡した金貨の出処も調べました。シュナイダー伯爵家の家紋入りの袋に入っていましたね」
マーガレットが崩れ落ちた。
「な、なぜ……なぜアレクサンダー様がリリアなんかに……」
真犯人の自白により、私の無実が証明された。会場がざわめく中、私はレオンを見つめた。
彼はなぜ、こんなに詳しく事情を知っているのか?
「レオン様」
私は彼に近づいた。
「なぜ私の無実を証明してくださったのですか?」
レオンは少し躊躇してから、小さく微笑んだ。
「実は、お話したいことがあります。人のいないところで」