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第10話 オレこそがエース

 こぼれ球を拾ったのは、日本だった。


 唯翔はパッと踵を返す。

 速攻カウンター、ドリブルでラインを上げていき、一気に巻き返す。


 と、二人がかりでマークされ始めた味方。


 図体のでかいヤツばっかりだよな…………でも。唯翔はぺっと唾を吐く。フィジカルで劣るなら、そのぶん速く走ればいいだけだ。


 出し惜しみなんてしてやらない。唯翔は夢中になって風を切る。幼馴染を、美桜を、ヨハンから奪い返すために。


 頬を一筋の汗が伝ってゆく。見える。見える。見える。ゴールへのルートが。


 今まで培ってきたもの、それら全てが今、ゴールという一点において爆発し出す。ヨハンの満足そうな笑い声が、脳内に響く。



「見直した……だが」


 バチンーーッッ


 ヨハンの長い手足が、唯翔の渾身の一撃を弾いた。激しい舌打ちが、宙に溶けて消える。


 もはや反射の域で全力疾走して、スムーズに相手FWに渡らんとするボールへかじりつく。唯翔が目配せした途端、久米野はすみやかにプレスをかけにいった。ところがそれは、ガタイのいい欧米人相手には微力だったようで、軸をずらされた久米野はその場に膝をつく。ファウル判定にはならなかった。


 かろうじて味方ディフェンスに渡ったボールを、相手MFがそつなくカットする……


「チクショウ……!」


 ドイツによって決められた2点目が、前半終了の合図だった。



 



 ボールスタートはドイツ。45分あるとはいえ、まだまだ己の失態が招いた失点の存在は大きかった。さっきだって、監督に「ポジション変更も選手交代もやめてくれ」と懇願したばかりだ。


 きっとタイムラインは荒れ放題だろうな、みんな「もっとやる気出せ」とか「泥試合乙ww」とか呟いてるに違いない。


 それでも、オレがすべきことはただ一つ、唯翔は小さく深呼吸した。


 時間稼ぎなのか、二苔へわらわらディフェンスが集まり出す。おおかた、2点を死守して逃げ切るといったところなんだろう。


 しかしーー


「僕らを舐めてもらっちゃ困る、かなっ」


 そこに挟まる、完璧すぎる超絶技巧。トラップだ。二苔はディフェンス陣を軽い足技でいなしながら、流れるように高いラストパスを出してきた。


(やれる、のか?)


 自問自答。ひたすら目を、瞬かせる。フィールドの位置はたしかにドンピシャ、でも後数cmというところで、唯翔のつま先をかすってしまう。


(いや……オレが…………)


 天鬼唯翔オレこそが絶対的エースなのだと世界中に知らしめてやれ。そう、力強く自分に言い聞かせる。


 だから、どろくさくたっていい。指さされて笑われることになってもいい。


 やるんだ。


 深く深く顎を引いて、バネみたいにジャンプする。唯翔は、味方のクロスに合わせてーーヘディングを決めた。


 それはちょうど、ヨハンの届かないところに突き刺さる。


 バスンッ‼︎ という、ネットにボールが吸い込まれる時の、爽快な響き。そして、鳴り止まない大喝采。

 一瞬の静けさの中、1ー2。やっと、勝利への道が浮かび上がってきた。


「いいぞユイ、上がれ上がれーっ!」


「とりま引き分けまで追いつこう!」


 後ろから、仲間が口々に叫ぶ。


 決定機を逃すまい、唯翔は死にものぐるいでディフェンスを引き剥がし、みるみる死地へと突っ込んでいく。


 

 本能のまま、唯翔がヨハンへ肉薄する。



「……ありがとう、ユイト」



 ヨハンの口元にはアルカイックスマイル。この時を、ずっと待っていた。


 指を丸め、おもむろにボールを押し出す。


 ーー実に楽しませてもらったよ


 捨て身の無回転シュートを受け止めていたのは……ヨハンの、膝当てだった。


ピ、ピッ、ピー……ッ! 


 試合終了のホイッスルが、無慈悲に鳴った。

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