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20年間Gと無縁だと思ってたら、どうやら蜘蛛神様のおかげだったようです

作者:

ゴキブリとかハエトリグモとか蜘蛛という単語がめちゃくちゃ出てきます。文字もダメな方はブラウザバック推奨です。


「聞いてよ(あおい)! 昨日はもうほんっと最悪でさぁ!」


 朝。大学の構内にて。

 私を見つけるなり、友達の日菜(ひな)がぶりぷり怒りながら開口一番そう言ってきた。


「なになにどうしたの。朝からそんなに怒って」

「怒りたくもなるっての! 昨日家に帰ったらさぁ、玄関にでっかいGがいて!」

「ジー……、……あぁ、ゴキブリのこと?」

「言うな言うな言うな。その名前をいちいち言うな」

「いやでもGってゴキ……」

「あーもう。そうそう、そのゴキブリが玄関にいてさぁ、うっかり殺しそこねちゃって」

「あー……」

「もうほんっっっと最悪! 部屋のどこかにいるかと思ったら落ち着かないし眠れないしでもう! ほんとに! 最悪!」

「……それは災難だったねぇ……」


 きーっ! とゴキブリに対する恨み辛みを吐く友達を尻目に、私はひっそり思う。


 一ー実は私、ゴキブリ見たことないんだよねぇ、と。





 ゴキブリを見たことない、と言うと、大体、北海道出身ですか? と聞かれる。

 でも全然そんなことない。産まれは普通に佐賀県。


 なら、よっぽど綺麗好きな両親の元に産まれたんですねぇと言われるがそれも違う。

 両親は至って普通の暮らしをしていた。極端に綺麗好きとかでもない。ゴミ屋敷ってわけでもなく、『ゴキブリが出たぁ』と嫌な顔をしてた地元のあの子の実家と同じぐらいの綺麗さ。だから多分、至って普通の家だと思う。


 なのに私は、産まれてこの方、一度もゴキブリを見たことない。


 実家にいる頃から、上京して都内で一人暮らしをする今に至るまでそれは変わらずだ。

 だから私には、ゴキブリを極端に怖がるとか、嫌がるとか、そういうのがいまいちよくわからなかった。


 だって実物を見たことないんだもん。





「ただいまぁ」


 無線イヤホンを外しながら、玄関の扉を開ける。

 一人暮らしなのでもちろん返事は返ってこないが、特に気にすることもない。一人暮らしを始めて二年。ホームシックなんて遠い過去の話だ。


 自炊だるー、と思いながら、ユニットバスで手を洗ったり部屋着に着替えたりなんだりしていると、ふと真っ白な壁に黒いなにかが走った。

 お、と思ってそこを見る。

 私の視線に気づいたように黒いそれ一ー小さなハエトリグモがぴたりと動きを止めた。


(今日も元気そうだなぁ)


 ハエトリグモは口もとの牙っぽいのをかしかし動かして、壁を歩き出した。


 なんてことない、いつもの風景。一ーそう思えるぐらいには、私の周りには、常にハエトリグモがいた。


 いや、ハエトリグモがいるってなに? と言われそうだが、言葉通りなのだ。実家にいた頃からそう、少なくとも2日に一回はハエトリグモを見ていた。

 蜘蛛は益虫だから殺すなよ! と母から口酸っぱく言われていたし、噛んだりもしてこないから、殺したこともなかった。


 蜘蛛はゴキブリも食べるらしい一ーが、こんな小さい体で本当にゴキブリなんて食べれるんだろうか? でも確かに、私がゴキブリ見たことないのって、このハエトリグモのおかげなのかなぁ。


「でもお前は、ゴキブリを食べるには小さすぎると思うんだけどね」


 なんとなく急に気になって、よし、ハエトリグモが本当にゴキブリを食べるか調べるぞ、とスマホのロックを解除したそのとき一ー



「食べるさ。蜘蛛だからね。ハエトリグモだけが私の子飼いではないし、大きいものはアシダカグモにも食わせてるよ」

 


「一ーえっ」


 やけに通りの良い、低い声が聞こえた。

 驚いて顔を上げると一ーまぁびっくり。長い銀の髪を後ろでひとつくくりにした、着物の超絶イケメンが立っているではないか。


「私は食べないよ? これでも一応神だからね。無用な殺生はあまりよろしくない。そういうわけで、君の周りにいるゴキブリは、全て私の子飼い達が食べている」

「えっ、あの、」


 ん? と超絶イケメンが、ぐるりとあたりを見回す。自分の体を見て、部屋を見て、最後に私の顔を見て、あぁ、しまったね? と特に困った風もなく首を傾げた。


「うっかり出てきちゃった」





 話によるとこうだ。

 この超絶イケメンは蜘蛛の神様。

 私は覚えていないのだが、私が小さいときに、死にかけだった蜘蛛神様を助けたことがあるらしい。そのことにとても恩義を感じていて、それ以来、私に付き纏っているとのことだった。


「どうにも人間はゴキブリが嫌いらしい。そういうわけで、恩返しのつもりで、葵の周りにいるゴキブリは全て子飼い達の餌にさせてきた」

「ひぇっ」

「見たことないだろう、ゴキブリ」

「ないです」

「そうだろうそうだろう」


 うんうん、と満足げに神様は笑った。


「うっ」

「どうした」

「イケメンすぎて眩しい」

「それは良かった。葵たちの周りではこういうのが流行ってるんだろう? 背が高くてイケメンで……、葵好みの形にならないと、と念じていたらうっかり姿を現してしまった」

「えっ、なんですかそれ、その言い方だとずっと私に付き纏ってたみたいですけど」

「? そうだけれど? なんせ君は私の恩人だからね。少しでも恩返しするために、常に恩返しする機を伺っていた」

「ひえっ」


 ええ……じゃああんなところやこんなとろも見られてたのかぁ……と少し気が遠くなるも、目の前の超絶イケメンを前に全て霧散していく。イケメンってずるい。全てを許してしまう迫力がある。


「おおそうだ。せっかくだし、葵の友達の日菜とやらの部屋のゴキブリも全部食べてしまおうか」

「えっ!? そんなこともできるんですか!」

「できるともできるとも。なんせあの子は、ここにきて葵の初めての友達だろう? 私も恩義を感じているんだよ」

「うわマジで全部筒抜け」


 とはいえゴキブリがいなくなるのは日菜にとっても喜ばしいことだろう。よろしくお願いします、と神様にお願いした。





 それから数ヶ月。それとなーく日菜にゴキブリの話を振ってみたところ、ゴキブリは一切見なくなったらしい。

 良かった良かった、と言いたいところなのだが。


「……あの、神様? なんでずっと姿を現したままなんですか?」

「だってもう見られちゃったし? 葵と話すの楽しいし?」

「えぇ……」

「大丈夫大丈夫。葵以外には私の姿は見えないし、声も聞こえてない」

「そうじゃなくってですね」

「それにほら、葵は未来の私のお嫁さんの予定だから。変な虫がついたら、子飼いたちに食べてもらわなければならないしね。だからこうしてずっと監視……付き纏ってるわけだ」

「待って今なにか不穏なこと言いましたね?」

「いいや? ほら、もうすぐ一限が始まるんだろう? 勉強勉強」

「うっ……」


 どういうわけか、神様はずっと私の背後をふよふよ飛んでる。 

 常に超絶イケメンが背後にいるのは精神的にしんどいとか、なんか最近不穏なことを言い出してる神様に思うところないわけがなかったが一ーとりあえず私は、神様に言われた通り、まずは勉強に集中することにした。

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