#1 出会い
暖かな昼頃、あてもなく歩いていた。
僕は新人俳優だ。
自分にそう言い聞かせている。
そうでもしないと諦めてしまいそうだから。
いくつものドラマや舞台、映画のオーディションを受けてきた。
でも見つけてはもらえなかった。
自分の何がいけないんだろう。
でも反対にそんな簡単にはいかないだろうという気持ちもある。自分に自信が持てない。
そもそも自分には何もなかったのかもしれない。
続けていれば芽が出るものと思ってしまっていた。
僕はふと見つけたベンチに座り込んだ。
ベンチは木の下にポツンと1つだけ置かれていた。しばらくそこにいると、僕をめがけて10枚ほどの紙が飛んできた。
なんだ?!と思い1枚つかんだ。
残りの紙はどこかに飛んでいってしまった。
紙には文字がびっしりと書かれている
すると女の人が一目散に僕めがけて走ってきた。
手にはファイルを持っていた。
「すみません、ごめんなさい。」
と女の人は言った。
紙を飛ばしたのはこの女の人だ。
つかんだ紙を渡し、顔を見た。
女の人の目には涙が溜まっていた。
知らない人だけど、何があったのか気になる。
女の人は紙を受け取ると僕に礼を言った。
トボトボと遠くに歩いていった。
僕はしばらくの間、彼女の後ろ姿を眺めていた。
あの紙はなんの紙だったのだろう。
僕は少しそのままベンチに座っていて、空が薄暗くなってきた頃に家に向かった。
通ったことのない道を歩いた。
今日はいつもの道を歩きたくなかった。
歩いてる道の先にぼんやりと光るカフェの看板が見える。
僕は光に集まる虫のようにその光に近づいていった。
少し年期のあるカフェだ。
導かれたようにドアを開けて中に入った。
ひとり客がちらほらいた。
席に案内されアメリカンコーヒーを頼んだ。
味のあるオレンジ色の照明に雰囲気を感じる。
なんの気なくふと店の中を見回した。
僕は驚いた。
見覚えのある、さっきの彼女がいた。
気づかなかったことにしようと思った。
しかし、視線をそらす瞬間に目があってしまった。
さすがに無視はできなくて軽く会釈した。
彼女も会釈を返してくれた。
そのときの口角は少し上がっていた。
もう泣いてはいなかった。
そのときは僕のすべてが君になるなんて、跡形もなく消えてしまうなんて思いもしなかった。
いっそのこと君には出会わなければよかった。




