ルームメイトの寝言が愛しすぎるわけ
ルームメイトがいる。
社会人3年目の俺。最初にきたホームシックは自分を誤魔化してなんとかやり過ごしたが、やはり心は悲鳴を上げていたようだ。
家に帰れば無言、沈黙、静寂、そして孤独。そのうち、テレビもつけずに、ぶつぶつ言いながらコンビニ弁当を食っていた自分に恐れ慄いてからは、これはまずいとルームメイトを募集した。
そしてそのルームメイトのお陰で鬱っぽさからも脱出できた。正直ありがたいと思っている。
ただ。俺のルームメイトは人間じゃない。
猫だ。
名前は、ヒゲニャン。ヒゲニャンディズムのショートバージョンだ。
ある日、仕事から帰った俺は、いつものようにヒゲニャンに話しかけた。
「ただいまあ。今日も忙しかった〜疲れたよ、ヒゲニャ〜ン」
抱きつこうとしたら、尻尾を振りながら、さっと逃げてしまう。俺はスカッと空気を抱きしめる結果となり、さらに寂しさが増した。
「なんだよもう! 冷たいなあ」
文句を言いながら、コンビニ弁当をビニール袋から出す。
レンジでチンして食べようとすると、ヒゲニャンがふんふんと鼻を鳴らしながら、近づいてきた。
「ったく! こんな時だけ甘えてきやがって。ちゃんとおまえのメシは、あっちにあるだろ?」
猫缶を開けてある。
「それで十分だろ?」
すると。
《てめぇだけ良いもん食いやがって》
そう。ヒゲニャンは言葉を話す猫なのだ。
《自分勝手な人間め、このクソヤロウがっ! それに変な名前で呼びやがって……完全にパクリだろうがよっ!》
同じ猫を飼うにでも、可哀想な保護猫をと思い、譲渡会で目が合ったコイツを引き取ってみたはいいが、今までの不幸や苦労が原因なのか、とにかくガラが悪い。
しぶしぶ、シャケ弁のシャケをやった。
《こんなしょっぺーもん食えるかよ。オレを病気にする気か!?》
「なんだよおまえ本当に口が悪いなあ」
白飯もやる。結果、弁当の半分を取られてしまった。
こうなると仕事の疲れもあり、ストレスマックスだ。
やれやれと思いながら、歯を磨いてベッドに入る。すると、ヒゲニャンもここぞとばかりに布団の中に滑り込んでくる。
「電気消すぞ」
部屋が暗くなり、目を瞑る。ヒゲニャンの体温で眠気がやってくるが、ここは我慢。
そのうちヒゲニャンの喉からコロコロと寝息(?)がしてくると、俺はしばらく耳をすました。
《……むにゃむにゃ……ひとりで寂しかったよお……弁当ありがとう》
この寝言を聞いて満足してから眠るのが、俺の毎日の癒しになっている。