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参謀本部にて 転生者

 パリ軍縮会議の後、各国は制限内でどれだけ質的向上が可能か考えることとなった。量から質への転換である。



 昭和十二年十一月 参謀本部


「佐藤砲兵中佐殿、参謀総長がお呼びです」

「お呼びなのか。では、10分後に参りますと」

「はっ」


 参謀総長がなんだろ。とりあえず今の仕事は中断と。「室員はこいつを仕上げておくように。課業終了時間になったら帰って良し」と指示し参謀総長室へと向かう。


「佐藤砲兵中佐、お見えです」

「通してくれ」

「畏まりました」


「佐藤砲兵中佐、参りました」

「うむ。よく来てくれた。そこに掛けたまへ」

「はっ。失礼します」


 参謀総長室の応接セットは凄いよ。フカフカだが沈まずほど良い。戦闘研究室の応接セットなんて安物だよ。

 秘書の入れてくれたお茶が最高級品だと思う。いれ方もいいのでとても美味しい。戦闘研究室の適当にいれる番茶とは違う。


「貴公に来て貰ったのは新しい任務に就いてもらうためだ」

「新しい任務ですか」

「そうだ。ああ、君。この部屋へは誰も入れないように。君達もな」

「畏まりました」


 副官と秘書と護衛まで追い出してなんだろう。


「貴公は転生者で間違いないね」


 おぅ。のっけからっ込んでくれる。


「転生者?ですか」

「否定しなくても良い。私も知る立場になった。陸軍にはもう一人。海軍には三人いる。君と親しい佐々木修吾教授もだ」

「ご存じで」

「ああ。もう一人とは会わせないようにしていた。そこで質問がある。君はどの時代からだ」

「令和です。昭和の後の後です」

「昭和は何年続いたのかな」

「64年です」

「そうか。長生きされるのだな」

「国民より敬われておりました」

「そうか」


「実は貴公ともう一人の時代が違うのだ。君は日本共和国というのを知っているか」

「いえ、自分は日本国民でした。日本が共和国を名乗ったことはありません」

「共和国は随分と好戦的でな。海外植民地もたくさん持っていたそうだ」

「野蛮ですな」

「野蛮と言うか。貴公の生きた時代はどうなのかな」

「平和な時期もありましたが概ね狂気でした。狂っていたのでしょう。時代が」

「狂っていたと?」

「はい。日本は大政奉還以降で対外戦争を5回。死者は民間人も併せて400万人にも及び負傷者も同じような数です。日本は悲惨でしたがヨーロッパは地獄でした。普仏戦争以降でも大規模な戦争が2回。2回で軍民併せて4000万人という犠牲者が出ております」

「4000万人だと!国が滅ぶ犠牲者数ではないか」

「さらにスペイン風邪で世界でですが1億人以上の犠牲者が出ております」

「スペイン風邪は恐ろしかったが、世界で3,000万人から5,000万人と言われているぞ」

「ペニシリンです。自分たちの時代にはまだ有りませんでした」

「ペニシリンは貴公らのおかげなのか」

「北里柴三郎先生にお任せしました」

「我が国でも、肺病での死者数が激減している。ありがたいことだ。他には無いのか?有れば欲しいぞ」

「時代と隔絶していますのでかなり目立ちますから、出さないようにしています。科学技術が進まないと実現しないものが多数あります。それに専門家はいません。知っているだけです」

「それでも、かなり役立つだろう」

「世界のバランスを崩さないように気をつけています。ヨーロッパやアメリカにも転生者はいるはずです。どう動くのかわかりませんから」

「出せんのか」

「出しません。こちらにも覚悟があります」

「それほどに危険な物が有るのか」

「有ります。知っているだけとはいえ、知られれば開発されるでしょう」

「するな。確実に。危険だからダメだと言ってもするだろう」

「ですから出しません。ご理解いただきたい」

「よろしい。無理は言わない。君たちの出していい範囲までなら出してくれるな」

「日本が我々の知る悲惨な歴史を辿らないようにしたいのです」


 有るんだよな。中空弾頭とかフレシェット弾とか。ナパームとか燃料気化爆弾とか。核とか。どこかで開発されてからで十分だろう。日本が先頭にいなくてもいい兵器だ。


「日本の悲惨な歴史とは?」

「その前にお聞かせ願いたいのですが、共和国はどうなっていましたか」

「彼の歴史だと激戦の最中だったそうだ。ジェットとか言っていたな」

「ジェットですか。今生きている世界では技術開発が数年遅くなっていますが、イギリスとかアメリカで開発が始まっている頃ではないかと」

「何だと?教えてくれればいいものを。後は何故遅れているのだ」

「我々も記憶が定かではありません。先に申し上げたように専門家ではなかったのです。正確な歴史を知りません。遅れているのは戦争がない平和な世界だからです。戦争は科学技術を一気に押し上げます」

「そうなのか?出したくない技術ではないのか」

「そうではありません。先ほど申し上げたように記憶が定かではありませんので、思い出さないこともあります。元々知らないことも大変に多いです。ジェットは言われるまで思い出さなかったのです」

「ふむ、そうか。貴公の心の内はわからないがそうなのだろう。それでだ、我が国でジェットの開発は出来るのか」

「出来ます。ただし、自分の知る範囲では材料工学や冶金技術が遅れていますので数年内の実用化は無理でしょう」

「無理なのか」

「無理です。周辺技術が育たないと実現できない物が多数有ります」

「そうか。それで威力はどうなのだ」

「プロペラ戦闘機の時代は終わるとだけ」

「戦闘機だけなのか。終わるのは」

「いえ、用途によって様々な機体があります。その中で一番早く終わるのが戦闘機です。他は用途別に生き残ります」

「そうなのか。それは終わりとしよう。続いてだが、貴公の生きていた歴史では日本が悲惨だと言ったな。どういう意味か」

「それに関しましては、幕末から始まりますがよろしいでしょうか。大分日が落ちてまいりました」

「むう。時間が足りんな。では明日だ。午前中は参内するのでな。昼食後、この部屋に来るように」

「畏まりました」


 部屋を出ると副官と秘書と護衛が待ち構えていた。


「終わりだ。明日の午後続きがあるので、また来る」


 疲れた。質的向上に転生者を使う気なのだろうな。出していい技術は出そうと思うが、俺の知らない技術は多い。海軍の奴はどうしているのだろう。恐らく同じだろうが。





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昭和一二年   陸軍


歩兵師団   14個

騎兵師団    1個

砲兵師団    3個

飛行師団    1個

戦車師団    1個

輜重師団    1個

その他     2個師団相当

総人員数   22万人


日本総人口  6800万人 最大35万弱が可能。 




対外戦争を5回

日清・日露・第1次世界大戦・日華事変などの中国侵攻・太平洋戦争


日本を含む世界の人口はペニシリンとその影響で開発された医薬品や医療技術等のおかげで史実よりも多いです。


次回更新 8月12日 05:00です。

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