1946 新大陸
1946年10月 ベルリン首相官邸
無事乗り切った。もう破滅の足音は聞こえない。聞こえないよね?
フランスもモスクワ大公国も根性無しで助かった。後はアメリカ合衆国だ。なんだよ中立国のくせに紛争当事国に武器輸出って。国際法をなんと考えるか。まああの国は自分に都合良く法律を解釈しねじ曲げ、自国内で都合の良い法律を作って外国にも適用させる国だからな。
とりあえず文句は言い続けるぞ。証拠は揃っている。言い逃れできまい。
1946年10月 ワシントンの某白い家
おかしい。ドイツは暴発しないのか?ナチスは無いけれどヒトラーがいるのに。なぜドイツ国内が平穏なんだ。なんで周辺の国を平らげないんだ。まさか、ヒトラーはヒトラーでは無いのか。私のように。
「プレジデント。国務長官がみえました」
「もうそんな時間か。よろしい、会おう」
「プレジデント。ドイツがおとなしいですな。国際法違反だと非難声明を出すだけです」
「そうだな。もっとやると思っていたが」
「あれだけの軍事力でおとなしくしているのが信じられませんな」
「そのままの勢いで周辺を平らげると考えたが、最新戦艦4隻のダメージが予想以上に大きいのか」
「外洋に出る力を失いましたからな」
「そうだろうな。イギリスがいて日本もいる。海軍力では勝てないだろう」
「一度、軍も交えて話を纏めましょう」
「そうするか」
補佐官を呼んで、
「会議の手配を」
「畏まりました」
翌日、ホワイトハウスで行われた会議では
「ドイツがうるさいがあの国にはここまで攻め寄せることは出来ないないだろう。放っておく」
「プレジデント。ところがドイツは報道各社から意見広告を出しました。勿論有料です」
「それは聞いた。対処したそうだが」
「大手の新聞社やラジオ局は手配できましたが」
「地方や中小が間に合わなかったのか」
「はい。それで地方の上院下院議員から問い合わせが多くて」
「黙らせることができないのか」
「民主党だけなら可能ですが」
「共和党と労働党か」
今、アメリカ合衆国の議会構成は下院240名、上院80名だ。その内与党民主党が辛うじて下院122議席と過半数。上院は36議席。下院の残りは共和党76議席、労働党42議席。上院は共和党33議席、労働党11議席。
それを考えると無理な議会運営は出来ない。下手な法案は民主党内からも反発が出て流される。
「どうするか」
「プレジデント。大統領権限でも開戦は出来ません」
「わかっている。こちらから仕掛けることはない」
この会議の出席者は開戦派で固まっている。
「マクガバン君。国務長官としてスペインはどうか」
「スペインはいい顔しておりません。ドイツが強すぎてこちらの方を向かなくなりました」
「スペインはいい足がかりになるのだが」
「プレジテント。よろしいですか」
「情報局長官か。なにかいい手でもあるのか」
「スペインは内部に独立派を抱えております。そこを突っつけば可能性になるかと」
「過激なのか」
「バスクとカルターニャですな。独立機運は高いです」
「それは悪手です。バスクとカルターニャはフランス国境に在り、軍を送り込むにはイギリスの鼻先をかすめるか、ジブラルタル海峡を越えねばなりません」
「イギリス海軍には勝てないのか。海軍長官」
「現状では勝てません。それに日本がまた出てくるでしょう」
「日本など極東の小国だろう。イエローだ、出来ることはしれている」
「偏見はご自分の足元を掬いますぞ」
「注意しよう」
おかしい。プレジテントの中の人は考える。
だいたい大恐慌がないし、日本が真珠湾へ奇襲してこないし、ドイツはユダヤを虐殺していないし、ソ連が無い。どうして歴史が違うのだ。
超一流ではないが一流大学を出て働いて金融商品でウハウハになってニューヨークの高級マンションの住人になったと思ったらリーマンショックで吹き飛んだ。文字通りの一文無しになってマンションも引き払い、生活もできず公的支援を受けたが酒に逃げ最後はそこら辺で酔っ払って寝ていた。覚えているのはそこまでだ。
ひょっとしたら記憶を持っているのは私以外にもいるのか。今まであまりにもスムーズにこの地位まで辿り着いたのでそういう考えが抜けていたか。
これは慎重に行動しないと拙いのか。最後が前の人生と同じなんて嫌だぞ。
「諸君。アメリカを世界の盟主にするという目標は間違っていたのだろうか」
「間違っておりません。プレジデント」
「では、何故上手くいかないのだ」
「他国が思うように動きません。それが全てかと」
「だが、このままでは経済規模が大きいだけの国になってしまうぞ」
「許しがたいですが、現実は」
「そうですな。最先端電子技術であるレーダーはイギリスと日本が先行しています。我が国はドイツと並んだくらいです。海軍としては不利だと考えます」
「条約で数の制限を受け技術でも先行されるか」
「勝つ手段としては数で圧倒するしかありません。我が国の生産力なら可能です」
「だが、開戦まで持って行けるとも思えん」
「そうですね。ドイツが調子に乗ってヨーロッパを席巻という図式が崩れましたから」
どうするかな。そういえば大統領はかなりの額の年金を貰えるのだった。引退後の金の心配はいらないか。ならここで引くのもありだな。
「諸君。今まで努力してきたが時期尚早だったのかもしれない」
「諦めるのですか」
「機会を掴めなかった。これは私の責任でもある」
「では…」
「国民が納得できる理由が無い。これでは開戦できない」
「残念です」
「だが、次の世代には期待しよう。中国がきっかけになるかもしれない」
「共和党のあいつですか。金だけの繋がりのようですから、どこまでやるか」
「我々の場合、中国を研究して文化や民族性から泥沼に嵌まりそうだと止めましたな」
「それは今でも正しかったと考えている。負け惜しみではなくてな」
「プレジデント。次の選挙はどうされますか」
「三選は目指さないよ。それに武器輸出問題の責任を取らなくてはならない」
「そうですな、老兵は去るのみです」
「致し方ないですか」
モスクワ大公国に開戦後も武器輸出をしたことをイギリスからも批難され始めた合衆国。
批難する国は増えていく。
アメリカ合衆国政府は「一部企業が勝手に輸出した事を掴めなかった」と弁解するが「どこの国が兵器生産と輸出を野放しで勝手にさせるのか」と余計に批難される。
違法武器輸出が捜査対象になり、逮捕者が次々と出る。だが、大統領や側近に届くことはなかった。実際に指示したことはない。間に何人か挟んでそれとなく仄めかしただけだった。それも問題であるが、多かれ少なかれやっている人間は多い。
翌1947年11月の議会選挙で民主党は大敗。共和党は下院と上院で過半数を占める。労働党も躍進した。
大統領選挙は共和党候補に決まる。民主党は候補を立てたが惨敗だった。
新しい大統領の下でアメリカ合衆国は中国へ関与する事になった。
次回更新 9月22日 05:00です。
皆、保身に走る転生者たち。だいたいの転生者物語だと生き延びるために必死かイケイケになっています。たまには保身に走ってもいいですよね。
レーダーはイギリスと日本が先行
佐々木教授がいろいろ頑張りました。開発よりも折衝とか交渉とか根回しの分野で。
ルーズヴェルトはいた模様ですが、現職は誰かさんです。
アインシュタインはドイツ在住です。他にはドイツから逃げ出したりドイツを追われたり、ソ連に連行された学者さん達や技術者達も概ねドイツ在住。
ドイツはフォン・ブラウンの夢を実現するために動くのか。
ドイツの技術は世界一~~~ になるかもしれないが、電子技術ではイギリスと日本が先行。