反撃
いきなり講和条約を破りバルト三国再侵攻を行ったモスクワ大公国。
その知らせに驚いたのは勿論ドイツ帝国だが、イギリス・フランス・日本も驚いていた。
ベルリン 首相官邸
「諸君、モスクワのブタにケツを叩かれたな」
(約束は破るためにあるbyスターリン。だっけ。モスクワ大公国など信用していなかったが、これは無い。早すぎるだろ。戦艦4隻が沈んでドイツが弱いと思ったか?)
「首相閣下。いかがなされますか」
「ブラウヒッチュ元帥。いかがもなにも、講和条約が破られた。一方的にだ。我々は被害者である。ではどうするべきか」
「当然罰を与えます」
「よろしい。バルト三国には少し我慢をして貰う。罰を与える手段はOKWに任せる。目標はクレムリンだ、モスクワ大公国を潰す」
ざわつく会議室。
「ナポレオンでさえ出来ませんでしたな」
「時代が違う。今のドイツなら出来るはずだ」
「全力を持って当たります」
「当然だな。私はイギリスと話をしようと考える」
「休戦ですか。首相閣下」
「さすがに東西で戦争は出来ない。いかにドイツ帝国といえど負担が大きすぎる」
「こちらから宣戦布告して勝手に休戦を申し出るのはいかがかと考えます」
「やるさ。私の舌は何枚もある。イギリスにも負けないほどにな」
(これで俺の破滅要素が減った。偉いぞ、モスクワ大公国。褒めてやろう。褒美は鉄槌だ)
1946年1月07日
ドイツ帝国とイギリスの間で休戦条約が結ばれた。休戦であって講和ではない。
チャーチルとヒトラー。舌の枚数はどちらが多かったのだろう。
1946年2月04日
ベルリン 首相官邸
「首相閣下。モスクワ大公国が再びベラルーシに兵力を集中しております」
「ブラウヒッチュ元帥。どうか」
「はい。戦争計画は完成しておりません。いかんせんモスクワは遠すぎます。しかし、目の前のハエを払う程度のことは可能です」
「奴らはハエか」
「似たようなものですな」
「では、うるさい奴らを払ってしまえ」
「了解しました。総指揮はマンシュタイン元帥が執ります」
「うむ、陸はいいか。海軍だが、どの程度行動可能か。レーダー提督」
「動かせるのが戦艦オレインブルクとシュタイン。重巡がヒッパーとシェーアにリュッツォウ。軽巡がケルンとザイドリッツにミュンヘンの3隻。駆逐艦が16隻です。他の巡洋艦と駆逐艦は旧式すぎてバルト海の外ではこれら艦艇と艦隊行動もおぼつかないでしょう」
「日本海軍に沈められたのは痛かったな」
「まさか航空攻撃があれほどの威力を持つとは思いませんでした」
「凄いものだ。我らの空母でも出来そうではあるが、もう機会が無いな」
「日英海軍との実力差は絶望的です」
「潜水艦はどうなのか」
「かなり沈められました。損害ばかり増え戦果は伸びていません」
「休戦して良かったのか」
「海軍からすれば」
「そうか。戦死された軍人には哀悼と感謝を」
「ありがとうございます」
モスクワ大公国を潰す作戦名は『落日』とされた。
しゃれた作戦名など奴らにはもったいないということで簡単な作戦名となった。
モスクワ大公国に対する鉄槌は、ベラルーシに屯するモスクワ大公国陸軍を潰すことから始まった。
作戦名『落日』の支作戦で『夕日』。開始は1946年2月14日。プレゼントしようか。鉄と火の嵐を。
これは偵察によって戦力集積が終わりかけており、侵攻が近いと判断されたためだった。OKHによるとあと2日欲しかったというが、向こうが始動してからでは遅いと判断された。
向こうの偵察機はほとんど撃墜しており、こちらの情勢はつかみ切れていないだろう。気になるのは偵察機がアメリカ製というところだ。
少数機が輸入されたのでは推測されたが、最近アメリカ商船の数が急に増えていた事からかなりのアメリカ製兵器を輸入したのかもしれないとOKWは考えた。もし、英独戦時に中立国で増えたアメリカ船籍船が丸々アメリカ製兵器を積んでいたとしたら。
それはベラルーシに侵入後、正解であった事が証明された。
「おい!何だあの戦車は。識別表に無いぞ」
「そう言われても困ります。メッケル少尉」
「あんなところに75ミリ級の主砲が有る戦車って」
「大きさや形状的にはモスクワ大公国のT23ですよ」
「T23はあんなでかい砲積んでない」
『中隊全車。ケイマン大尉だ。あの変な奴の左に行くな。右からやれ。あんな垂直装甲なら貫通できるだろう』
『『『『ヤー』』』
「生意気なビスマルク。左だ左。とっとと走らせろ」
「少尉、右って言いませんでした」
「こっちは左にいるんだよ。奴の目の前を右に行ってどうする。的になるだけだ。後ろに回り込む」
「了解」
メッケル少尉は、乗車であるⅢ号F型と僚車2両を連れて敵戦車後方に走る。残念ながら1両は砲塔を吹き飛ばされ煙を噴いている。もうダメだろう。
敵戦車は方向を変えている。転換速度が早い。これは拙いか。と思ったら、敵戦車が火を噴いた。味方がやってくれたのだろう。
メッケル少尉の所属する大隊では、その日の戦闘では敵戦車13両撃破。だが、思いも寄らぬ75ミリ砲戦車によって12両がやられてしまった。
「メッケル少尉。来たか」
「はい中隊長」
「ではあの戦車だが、アメリカ製だ」
「「「は?」」」
「まあ、そうなるな」
「モスクワ大公国は買う金有ったんでしょうか」
「有ったんだなろうな」
「中隊長。大隊本部からは何か有りましたか」
「「正面を避けろ」だけだ」
「・・・」
「そんなことはわかっているんだよな。戦車戦の基本だ」
「はい」
「まあ、今日は天気が悪く空軍が出なかったが明日は晴れる予想だ」
「では」
「空軍が出てから俺たちが出る」
翌日、晴れ渡った空をドイツ空軍が行く。頼もしい。
空軍の援護もあり、ドイツ陸軍はベラルーシ国内をその日50キロ前進した。
あまり急速に進まないのは後方支援基地設置のためである。モスクワは遠い。堅実に行くのだ。
ベルリン郊外陸軍基地
そこにはベラルーシで入手した様々な装備がガラクタから新品同様まで集められていた。
その中でも注目を浴びるのがアメリカ製兵器だった。
特に戦車と航空機だった。
戦車はM3で、ドイツ人技術者から見ると疑問だらけだった。75ミリ砲はいいとしても、何故あそこなのだ。装甲厚はともかくリベット接合の車体はそろそろ時代遅れだろう。被弾でリベットが飛び散るのは実弾をⅠ号戦車とⅡ号戦車に打ち込んで確認している。ただ、信頼性が高く整備の楽そうなエンジンと足回りは注目された。
航空機はPー40だった。飛行場で完全な状態のまま鹵獲できた機体だ。その飛行性能は長大な航続距離とMe109Eに迫る速度以外見るべきものはなかった。ただ頑丈な機体と防弾装備。整備が楽そうなV12エンジンは印象に残る。
陸軍は高性能なトランシーバーがうらやましかった。ドイツ国内で似たようなトランシーバーを作るかとなる。
大雑把だが頑丈そうで信頼性の高いトラック。
見るべきものは多数有った。
緒戦でドイツ帝国軍が優勢になったことから、日頃モスクワ大公国に恨み辛みの有る諸国の内ウクライナがモスクワ大公国に宣戦布告した。
国境を固めた後、セバストポリを落としてからクルクスを目指した。
東ロシア帝国も休戦を止め参戦したが、いかんせん戦場が遠すぎた。東ロシア帝国の兵站能力ではエカテリンブルクまで届くかどうかも怪しい。
ただモスクワ大公国領域に踏み込んだという実績が大事だった。
次回更新 9月15日 05:00です。
ドイツ戦車と言えば他の国の戦車よりも整備が面倒(通説)。Ⅴ号以降の大馬力マイバッハ・ガソリンエンジンはかなり面倒だったもよう。
ドイツ帝国対モスクワ大公国と言う図式に+α有るんでしょうか。