ジブラルタル通過
遣英艦隊ははるばる航海を終えアレクサンドリアに入った。補給と休養を取る。
ジブラルタル海峡を越えイギリスはスカパ・フローを目指すのだが、問題はUボートだった。イギリスは船団方式にしてかなり被害が減ったようだが、未だに猛威を振るっていた。
アレクサンドリアを出航した遣英艦隊の前面には、水先案内のイギリス駆逐艦と共に艦隊前面に第四海防隊が対潜スクリーンを張る。上空にはジブラルタルから飛んできたイギリス哨戒機が海面を見張っている。
この陣容を突破して攻撃を加えることは不可能とも思われた。
ベルリン 首相官邸
「日本の艦隊がアレクサンドリアに入ったとの報告があります」
「レーダー提督。イギリスとの合流阻止は無理かな」
「艦隊を根刮ぎ出してもよろしければ」
「イギリスも対応するだろうか」
「間違いなく一大決戦になります」
「勝てるのかな」
「日本も加わります。勝ち目はありません」
「空母は3隻あるだろう。それでも勝てないか」
「首相閣下。ヴァルハラでお待ちします」
「一大決戦は無しだな」
レーダー提督は何という無茶を言うのだと思った。ドイツ海軍はたしかに強大だが、陸軍と空軍の強化に予算が多めに振られ海軍は目立つ戦艦など大型艦に予算を掛けたので駆逐艦などは旧式艦が多い。それに軽巡以下の旧式艦を更新しようとしたら潜水艦だと言ってそっちにつぎ込ませたのはあんただろう。虎の子の最新戦艦4隻を目立つところに出したものイギリス牽制のためだった。まさか日本を巻き込むとは思わなかったのは、イギリスのなりふり構わない姿勢を読み切れなかった首脳部の責任だ。ああ、カナリスの奴と他に3人くらいは日本が出てくるぞと言っていたが、少数意見で無視されたな。
空母3隻もな。空母という艦種を良くわかっていなかった。3万トンもありながら35機しか積めない。飛行甲板に装甲を張ったので格納庫が小さくなってそれしか積めない。しかも、20センチ砲を連装2基と単装6門も積んでいる。まるで混ざり合った怪物、キマイラだな。さすがに拙いと思ったか3隻で建造中止。今建造中の3隻は主砲も無く搭載機も70機近い。まともな空母だ。
搭載機もMe109Tでは使い物にならない。5%が着艦事故で失われるとか冗談ではない。最近ようやくMe109Tー3になり、主翼の設計変更で主脚が普通の外開きになり事故が激減。メッサーシュミット社はふざけているのかと思った。最初からそうしろよ。
「機長。二時、海上。潜望鏡とおぼしきもの」
「二時か。鈴木一飛、確認出来るか」
「確認しています。棒状の物確認。距離およそ一〇〇〇」
「木戸二曹「潜望鏡らしき物見ゆ」打電」
「鈴木一飛は位置を指示せよ」
「鈴木了解。現在主翼陰に入りました」
「了解。打電します」
「右旋回する。よく見張れ」
これで3隻目だ。
機体を右旋回させていく。緩くだ。どのみち、四式三座水偵では急旋回など出来ない。
「機長、艦隊司令部より第四海防隊の追風を派遣する。とあり」
「了解。木戸二曹、発煙弾投下用意」
ジブラルタルを超えてアイルランド西方を回り、スカパ・フローを目指す遣英艦隊は3隻のUボートを発見している。1隻は沈めたのだろう。重油と漂流物が浮いていたと報告がある。2隻には逃げられた。
厄介な連中だ。最新の噂話だとイ号やロ号の精鋭連中と変わらないという与太話だ。もし事実なら怖すぎる。
遣英艦隊は無事スカパ・フローにはいることが出来たが、対潜警戒で精神的に疲れた。潜望鏡らしき物を6回発見。内、撃沈は1。後は逃げられた。雷撃でもしてくれば容易に発見できるのだが、偵察に絞られると潜水艦ほど厄介なものはない。しかし、ジブラルタル海峡からスカパ・フローまでで6隻か。ドイツはいったいどれだけの潜水艦を配備しているのか。
アイルランド西方深度40メートル
「先ほどの圧壊音は誰の船だろうな」
「おそらくU-118ですね」
「配置図からすればだな。アッカーマン少佐か」
「4隻撃沈で威張っていましたが」
「慎重さを欠いたか、日本海軍の対潜能力を恐れるべきか」
「先ほどはヒヤッとしました」
「聴音手を褒めてやろう。あの艦隊から小型艦の分離など普通は聞き逃すだろう」
四式三座水偵が見つけた潜望鏡の持ち主だった。
機関音が近づいてくるのを確認すると、直ちに偵察中止と潜行を開始した。敵の対潜艦だろう1隻が2時間ほど居座っていたが、結局探知できず去って行った。
遣英艦隊はスカパ・フロー到着後、簡単なセレモニーを受け三日後から活動を開始することとなった。まずは周辺の対潜掃討である。
スコットランドのある軍用飛行場。
「全機到着しました。落後機無し」
「よろしい。では基地司令に挨拶に行く」
空母から全機、陸上に揚げている。整備員は後ほど合流する手筈になっている。輸送船に載っている機体は後日ここまで届くと聞く。
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四式艦上戦闘機二二型
全幅 12メートル
全長 9.5メートル
全高 3.55メートル
自重 1.95トン
全備重量 2.9トン
発動機 金星五二型 離昇出力1280馬力
速度 310ノット/6200メートル
上昇力 6000メートルまで6分30秒
航続距離 900海里+350海里(増漕)
武装 機首 7.7ミリ機銃2丁 装弾数各700発
主翼 ホ105機銃 左右各1丁 装弾数各200発
主翼下左右 三番2発または六番2発
二式艦上攻撃機一二型
全幅 16メートル
全長 10.5メートル
全高 3.75メートル
自重 2.5トン
全備重量 4.4トン
発動機 栄二一型 離昇出力1100馬力
速度 220ノット/5800メートル
上昇力 3000メートルまで6分50秒
航続距離 920海里
武装 後方7.7ミリ旋回機銃1丁
航空魚雷 1本
八〇番または五〇番1発
二五番2発
三番または六番小型爆弾6発
一二型は一一型の栄十二型970馬力を1100馬力の栄二一型に変更した。
三式艦上爆撃機二二型
全幅 14.5メートル
全長 10.3メートル
全高 3.55メートル
自重 2.6トン
全備重量 3.6トン
発動機 金星五二型 離昇出力1280馬力
速度 235ノット/5800メートル
航続距離 800海里
武装 機首7.7ミリ機銃2丁、後方7.7ミリ旋回機銃1丁
二五番1発または五〇番1発
左右主翼下 三番または六番各2発
二二型は一一型の金星1000馬力を1280馬力の五二型に変更した他、主翼設計を改め固定脚を引込脚にした。他機体各部に改修を施し、飛行性能や空力特性はかなり向上した。
四式三座水上偵察機一一型
全幅 14.5メートル
全長 11.5メートル
全高 4.1メートル
自重 2.5トン
全備重量 3.5トン
発動機 金星四三型 離昇出力1080馬力
速度 198ノット/2400メートル
航続距離 1800海里
武装 後方7.7ミリ旋回機銃1丁
胴体下に六番または二五番1発
スカパ・フローといえばあのWW2でのあの事件。イギリスからすれば事件ですがドイツからすれば快挙。
さて、どの艦を沈めるか。
そして、イギリスからヴィルヘルムスハーフェンまで往復出来る戦闘機がやってきてしまった。さあどうするのだろう。
ホ105
ブローニングAN/M2を基本に日本陸軍が開発した航空機関砲。口径15ミリ。弾頭寸法15✕102。
炸裂弾の他各種弾頭を使用する。AN/M2に使えるような無垢12.7ミリ弾と同程度の高初速低伸弾道炸裂弾の開発に失敗したため、弾頭を大型化し開発した航空機関砲。ブローニングAN/M2よりも初速は落ちたが弾頭重量は増えており、M2ほどの低伸弾道ではないが弾道は十分伸びている。空気信管の採用で内包炸薬量も多く十分な威力あると採用された。
AN/M2は正規にライセンスしており、改造も通告済みで問題は何もない。現在20ミリ級と30ミリ級を開発中。
海軍は40ミリ以下は機銃であるため機銃と呼ぶ。陸軍は機関砲と呼ぶ。
この世界の日本は機関銃の開発が下手です。魔改造は得意。
次回更新 9月08日 05:00です。




