1945 バトル・オブ・ブリテン
1945年3月 ドーバー海峡上空
今日も上空ではドイツとイギリスの航空機がせめぎ合っている。海上にはパイロット救助のための救難艇が見える。
どちらも出している。そして何故かお互いに救難艇と救難機は攻撃禁止対象になっている。相手のパイロットも助けるが渡す義務はなかった。お互いのパイロットを減らすには有効な手段でもあった。戦場でパイロット救助競争が発生している。
「各機、速度を落とすな。スピットに追いつかれるぞ」
『メルビン隊長。3番機ルントシュテット2曹。ガソリンが持ちません』
「海岸への不時着を許可する」
『ありがとうございます』
『前方、機影。多数』
『JG16、こちらJG23、ハインリヒ中佐。JG16は退避に専念せよ』
『JG16、メルダース中佐了解。JG23、ハインリヒ中佐。助かる。ありがとう』
『なに、任せておけ。無事な帰投を祈る』
『JG23の健闘を祈る』
『JG16各機、JG23が敵機を迎撃に行ったが後方警戒を怠るな』
『『『『ヤー』』』』
奇妙な戦争だった。海上でのパイロット救助もそうだが、ドイツ軍の目標は軍事基地と鉄道や港湾を含む物流施設と軍需工場だった。あらかじめ目標を定めていると宣言している。流れ弾や墜落機が目標外に落ちることはあるが概ね宣言通り推移している。
ドイツは同時に戦争海面をイギリス本土及び海外領土と植民地から1000海里と宣言していた。攻撃対象は病院船を除くユニオンジャックを掲げている船舶全て。と宣言をした。
これは攻撃対象と戦争海面を限定することで無制限潜水艦戦と見なされない程度のごまかしだ。
ヨーロッパ大西洋岸全域と地中海にアフリカ沿岸とインド洋沿岸はほとんどが含まれる。
明確な目標を定めてきたイギリス空襲に比べると遙かに厄介だった。
そして、3月27日。
「エクセター西南西300海里でエクゼター・ライン所属エクゼターⅢより救難信号。同時に『我雷撃を受く』後通信途絶」
この一報を皮切りに潜水艦による損害が激増していく。
1945年5月 ロンドン ダウニング街
「海軍卿、この損害は多くないか」
「現状手を尽くしてはいるのですが、潜水艦がこうも厄介だとは」
「すでに40万トンが失われている。死者・行方不明も2000人を超えた」
「船の中にはユニオンジャックを降ろすと言っている船もいます」
「国旗を降ろすのは拙いだろう。法律違反ではないのかな」
「遵法よりも生き残りたいが優先されていますな」
「海軍の奮闘を期待する」
「鋭意努力いたします」
ドイツ海軍は国旗の見えない船はイギリス船籍と見なすと発表した。
イギリス以外の船は国旗をひときわ高く船尾だけではなくマストにも掲げ、夜間はライトアップするという念の入れようだった。
ドイツ潜水艦からすればコソコソしている奴はイギリス船だという事になる。実にやりやすくなった。
イギリス海軍は商船の独航船での運用を止め船団形式にして護衛艦艇を着けることで損害を減らそうとした。海運各社も経済性より安全を求めて合意した。
9月以降体制が整い船団形式にしてからは損害も減ったが、半年間で80万トンを失っていた。
痛手を負ったイギリスの経済的損失は大きい。一部で供給制限が始まった。
追い打ちを掛けるようにバルト海から最新鋭戦艦が4隻大西洋に姿を現した。ビスマルク・チルピッツ・グナイゼナウ・シャルンホルストである。
「4隻が大西洋にだと」
「キール運河を使ったようです。デンマークからは何の知らせもありません」
「真面目に条約を守ったのか」
「おそらくギリギリでしょうが条約型ならキール運河も通過できます。しかし通過したのは事実でしょうね」
「どこに入った」
「ヴィルヘルムスハーフェンだと思われます」
「攻撃は出来そうか」
「我々もドイツと同等の攻撃を返すと宣言しておりますので、他国上空を通過出来ませんからオランダ上空は飛べません。最短空路でも往復800マイルになります。爆撃機だけなら行けますが。戦闘機の護衛が出来ません」
「厄介だ。何とかできんのか」
「空軍はなんと」
「護衛無しで良ければ行きますと」
「そんな馬鹿なことは出来ん。護衛無しで大損害を出したドイツの爆撃隊と同じになるぞ」
「手段を尽くしましょう」
「頼むよ」
イギリス空軍は各種偵察機を出して4隻の動向を探った。帰還率40%という厳しい偵察作戦だった。
往復と空戦で1200マイル以上の航続距離が必要になるが、距離はともかく現地で爆撃機を護衛しMe109と空戦が出来る戦闘機は無かった。
空軍では作戦実行困難として海軍に任せることになった。
1945年7月 スカパ・フロー
イギリス海軍がその持てる力を発揮するときがやってきた。と騒いでいるが主役は空母である。就役後ようやく慣熟の終わったイラストリアス級空母イラストリアス・ヴィクトリアス・フォーミタブルの3隻でドイツのヴィルヘルムスハーフェンを空襲するのだ。
目標は4隻の戦艦。これ以上無い獲物である。
結果から言うと、失敗した。まず、Uボートに見られていた。そしてヴィクトリアスが雷撃を受けてしまう。残りの2隻で強行するも、重厚な防空網にソードフィッシュが絡め取られ1機たりとも届かなかった。
イギリス海軍は貴重な空母搭乗員を消耗し、空母を出せなくなってしまった。他の空母は対戦警戒部隊として船団護衛に付いている。剥がせるわけもない。
この時点で爆撃も護衛が無く出来ない。空母は無力化された。どうしようもなかった。戦艦を突っ込ませるという手も敵の航空攻撃と4隻が出てくるだろうから出来ない。
イギリス国防省
「海軍卿は此度の失敗をどう捕らえているのか。また新たな手立てはあるのか。教えてくれ」
「首相閣下。いささか敵を嘗めておりました」
「いささかだと?」
「いえ・・・失敗です。弁解の余地も無く」
「そうだろうな」
「手立ては空母全てを突っ込めば」
「君は何を言っているのか。対潜護衛を止めろというのか」
「そのようなことはありません。空母は戦闘機のみとして空軍の爆撃機を護衛します」
「空軍卿。こんなことを言っているが」
「出来るかどうかといえば出来ますな。ただ護衛の質が問題です」
「戦闘機か」
「航続距離が足りませんし、何よりも空中集合が上手くいくとも思えません」
「出来ないのか」
「空軍としてはやりたいものではないですな」
「止めだ。許可できない」
「首相閣下。ではどうするというのですか」
「イギリスだけで戦おうと思わないことだ」
「どこの国を引き込むのですか」
「同盟を結んでいる国が幾つかあるな」
「我が国は宣戦布告をされた方ですな。それならば要請すれば嫌でも出てこざるを得ないでしょう」
「中でも有力な軍事力を持つ国となれば日本ですか」
「東ロシア帝国はここで役に立つと思うかね」
「思いませんな」
「明日、閣議に諮り国王陛下に裁可をいただこうと考える」
ビスマルク級戦艦 ビスマルク・チルピッツ
1943年就役
公表値
排水量 34500トン
全長 213メートル
全幅 33メートル
速力 28ノット
武装 38センチ砲連装4基8門
15センチ砲連装4基8門
10センチ砲連装6基12門
シャルンホルスト級 シャルンホルスト・グナイゼナウ
1939年就役
公表値
排水量 31000トン
全長 216メートル
全幅 30メートル
速力 31ノット
武装 38センチ砲連装3基6門
15センチ砲連装4基8門
10センチ砲連装4基8門
日本、ついに巻き込まれる。
次回更新 9月01日 05:00です。