1942 ベラルーシ
1942年5月 ドイツ帝国=ベラルーシ国境
「パンツァー・フォー」
数十両の鉄牛がベラルーシ国境を超えるべく発進した。
空を見上げれば、頼もしい変態が見える。
「ヘス君、モスクワ大公国は何を考えているのだろう」
「首相閣下、領土欲しかないでしょう」
「あれだけ十分な広さが有ってもか」
「ロシア帝国時代は倍以上有りましたからね。人口など3倍です」
「先代・先々代首相や先代皇帝陛下によると、我が国がモスクワ大公国設立に果たした役目は大きかったと思うのだが」
「おそらく気に入らないのでしょう。ロシア帝国をそのまま継げると思えば、東ロシア帝国が出来て後継としての正当性が国際社会で認められています」
「まあ小さく分割させることでドイツ帝国の安寧を狙ったのは上手くいったが、その後が言うことを聞かない」
「先代皇帝陛下を始めお歴々も手を焼いたようです」
「私もバルト3国には手を出すなと言い続けたわけだが」
「占領しましたな」
「我が国がバルト3国と結んだ防衛条約が有るのに何考えてるんだ。モスクワは」
「考えていたら、占領などしないでしょう。すべては過去の栄光を取り戻したいだけでしょうな」
1942年4月 ベルリン 首相官邸
「皇帝陛下の裁可はいただいた。ベラルーシからバルト3国までの地域を制圧する」
「首相閣下。ベラルーシからバルト3国でありあますか」
「いかにも。ベラルーシはミンスクまでだ」
「モスクワやサンクトペテルブルグは目指さなくても良いのですな」
「まさか。戦いたいからと言って独断専行しないよう各部隊と指揮官に徹底を。いいね、ブラウヒッチュ元帥。マンシュタイン将軍」
「「もちろんです」」
「国際社会からはそれ以上やると文句を言われるだろう。出てきた部隊を叩くくらいならいいが、侵攻はしないようにな」
1942年5月 パリ ベルサイユ宮殿
「ドイツ帝国がベラルーシに入りました。ケーニヒスベルクからもリトアニアの回復を目指して進軍しています」
「ご苦労」
「レノー首相、いかがされますかな」
「チャーチル首相。何もしないよ。何も。ドイツ帝国からは『バルト3国の回復を最優先としている。ベラルーシを叩くのはバルト3国の回復に邪魔だから』と、通告が来ている」
「確かに来ておりますな。しかし、ヒトラーなる人物は信用できますでしょうか」
「それを言ったら目の前の人物を誰も信じられなくなるのでは」
「かつては100年も戦争をしておりましたが今では友好国ですよ」
「そうですな。いやまったくです」
首相執務室で一人になったヒトラーは考える。
俺は最初はヒトラーに転生した事を呪った。最後が病気と薬中で自殺とかナイナイ。だがかなり歴史がおかしいことに気が付いた。なんだよ、ロシア宮中反乱とか、モスクワ大公国とか。もはや別物だろう。
ならば売れない絵描きよりも手に職をと配管工になった。どうだこれでナチスとは縁が切れるぞ。ちょび髭の配管工なら人気出そうだし。
そう思った頃もありました。そうして暮らしている頃、ヒンデンブルク先輩が訪ねてきた。離婚して子供の養育費をどう捻出しようと悩んでいた頃だ。
「お金用意できるよ、ヒトラー君。ナチスじゃないけど政党の用意もしよう。仲間にならないかな?」
こいつ、ナチスとヒトラーを知っていやがる。転生者かよ。これは逃げられん。
「ナチスって何ですか?」
「君、絵描きを目指さないのかな」
「家族が出来ると夢は追えませんね」
「毒ガスって知ってる?」
「さて?」
「手強いね。平原を埋め尽くす虎の群れを見たくないか」
「いえいえ、平和が一番です」
「虎がなんだかわかるのか」
「ティーガーでしょ。Ⅵ号戦車」
「ようやく引っ掛かったか。まだⅠ号戦車すらないというのに」
「しまった」
「オタクなら、積極的に関わってくるか回避の2択になるからな。中途半端は選ばん。君は回避を選んだわけだ」
「さっきも言ったが平和が一番」
「しかし、せっかくドイツがヨーロッパ1強となっているのだ。この機会に世界を狙わないか。君の右で」
「何だよ右って。俺はボクサーじゃない。第一、イギリスとアメリカがあるし」
「フランスも有ると考えるが」
「アルザスロレーヌが無いフランスなんて」
会話の後に上手いこと嵌められたのかやる気になってしまったのか、後悔したときには深入りしていた。
そしてチートじみたドイツ帝国ができあがってさあこれからだというときに、ヒンデンブルク先輩が逝ってしまった。90歳だから不思議ではない。長生きした方だ。ヒンデンブルク先輩の中の人はどう考えてもドイツ大好きすぐる日本人オタクだと考えたが、なんと別世界線日本からの転生者だと言った。オタクなのは否定しなかった。
その世界線ではWWⅡでドイツがヨーロッパに覇を唱え、イギリスはアメリカの威を借る狐のごとし。日本は中国に深入りし過ぎ身動き取れなくなって、手を引いたときには国が傾いていた。
世界はドイツとアメリカが対立しつつも協調して平和を保っていると。その世界線では普仏戦争までは概ね同じらしい。その後、ロシアが内乱で分裂と糾合を繰り返し小国群となっていた。嘘だろと思うが事実だと言った。
ロシアが安定しているとドイツの覇権に邪魔なので弱体化させようと考え,ヴィルヘルム二世を誘導してロシア宮中反乱を巻き起こしたと。「もっと小さい国が多数出来る予定だったけどね」と笑っていた。その後バルカン危機を躱し、内政に留意することでドイツ帝国をヨーロッパ随一の強国にした。後はお前がやれと言ってくれたが。その「お前がやれ」は、ドイツが世界を主導する地位に就くことだ。
ただ、人気取りに人種差別を使ったがアレだけは絶対にする気は無い。アウ・・とかポーラ・・とかの虐殺だが、俺は絶対にやる気はない。せいぜいヨーロッパに根強くはびこるユダヤ差別意識を使うだけだ。
移住先で不安なのかコロニーを作るのはわかるが、地域に溶け込まないのは自分で排斥してくださいと墓穴を掘っていると思う。バルカンと似ている。
俺(ヒトラーの中の人)は世界に覇を唱える。その第一歩として、モスクワ大公国のバルト3国占領は利用させてもらう。
問題は歴史を知っているが知っている歴史とかけ離れていることと、俺は戦車模型マニアであってミリオタでは無い。だから性能は知っていても兵器の詳しい運用方法や軍事など良くわからない。機動部隊の威力や電撃戦くらいは知っているが。作っていたのは主にWWⅡの戦車(特にドイツ戦車)と各国飛行機全般で、船はあまり作らなかった。また作りたいな。
餅は餅屋だ。軍事は専門家に任せよう。
ドイツでコソコソやっていたのはヒンデンブルクの中の人でした。
ヒトラーの中の人は結局中の人感覚でしでかしてしまうようです。歴史の揺り戻しか?
パンツァー・フォーしたのはⅡ号戦車です。ようやく出現したくらい。中の人は航空援護下の電撃作戦の威力を知っていますが、ドイツ陸軍は初めての運用なのでおっかなびっくり。
もちろん変態の乗機はJu87です。
次回更新 8月21日 05:00です。