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2-1章 初任給の使い道 

「マキャヴァリアスちょっといいか……!」

 次の日。朝のSHRの前にマキャヴァリアスに声をかけた。昨日はあのまま話をすることなかったので、どうしても今日話をしておきたかったのだ。

「…………」

 相変わらずマキャヴァリアスはムスッとしていて、こちらの問いかけを完全に無視している。そりゃあんなことがあった翌日だもんな。「どうしましたか、先生」とはいかないか。

「その、昨日はすまなかった。あの場でも謝罪したが、どうしても場の空気的に言わされている感があったからな。改めて謝罪させてくれ。怪我とかはない……みたいだな」

「…………」

 マキャヴァリアスは完全に無視をしているが、一方的に喋りたいことを喋る。

 これからは生徒一人一人ときちんと向き合っていく、無視されても無視されなくなるまで話しかければいいのだ。

 それにしても、こっちは昨日のビンタで顔がパンパンに腫れているのに、マキャヴァリアスの方といえば全くの無傷。なんならいつも以上にすました顔をしている。

 さすがは魔王の娘。

「ただこれだけは言っておく。暴力の件は申し訳ないと思っているが、授業をサボっている件については注意を止めるつもりはないからな。もし俺に絡まれたくないのであれば、聞いてるふりでも構わないから授業にはちゃんと出ろ、いいな」

「…………」

 当然のように無視。まぁ、伝えたいことは伝えた。今日のところはこれで。

 俺は「今日もよろしく」とマキャヴァリアスに伝えて教壇に戻った。

 SHRが始まる前に、日誌を書く必要があるのだ。俺はパイプ椅子に腰掛け、教壇の上で日誌帳を広げる。

「まーもるん!」

「うわっ! びっくりした!?」

 日誌の記入に集中していたら、突然目の前に人の顔があった。

 それが可愛らしい容姿を持った人物となれば、必要以上に驚いてしまう。

「あははっ! まもるん、変な顔!」

「お、お前は……ミッシェルか。急にどうした。俺に声をかけてくるなんて、なんだかんだ初めてなんじゃないか? ……というかなんだその呼び方」

 声をかけてきたのは、小悪魔系女子(性別は男だが)のミッシェルだった。

 うん、いつ見ても可愛らしい容姿をしている。俺のストライクゾーンど真ん中だ。

 なんでこんなに可愛い子が男なんだ。訳がわからん。

「いやー別に気まぐれだよー? 強いて言うなら、まもるんがボクのことを性的な目で見てるから揶揄ってあげようかなーって」

「見てないわ(見てるけど)!」

「守さん! どうして彼はよくて僕はダメなんですか!?」

「うおっ!? なんだなんだレインまでいきなりどうした」

 だいぶ珍しい組み合わせだった。

「お、レイン君おはよー。今日も相変わらずセクシーだね」

「おはよう、ミッシェルさん。今日も相変わらずキュートだ。だけどミッシェルさん、僕の守さんを誘惑するのはやめてもらえないだろうか?」

「おい、いつから俺はお前のものになったんだ……」

 よく分からんが、レインには始業式からずっとこんな風に絡まれている。

 好意を持ってもらえるのは嬉しいのだが、その方向性がちょっと特殊というか。

「チッチッ! 残念だけど、まもるんはボクの虜だからね。もう来週にはそういう関係になっていると思うよー」

「ならないからな!?」

 俺は教師として生徒に手を出すつもりはない……はずだ。

 うん、たぶん、きっと、おそらくは……この間の猫又女との一件を思い出して、ちょっと自信がなくなってしまった。

「ズルイです! 僕も混ぜてくださいよ!」

「頼むから落ち着いてくれ、お前ら……」

 レインだけでも持て余していたのに、ミッシェルが加わるともう手に負えない。

「……そういえば、守さん。昨日はマキャヴァリアス様との一件は解決したのですか?」

「ん、あぁ。なんとかな。心配かけて悪かったな。けどレイン、お前……なんでクラスメイトをわざわざ『様』呼びするんだ?」

「それはそうですよ、僕のような低級悪魔がマキャヴァリアス様を気安く呼ぶなんて、とてもじゃないですが出来ませんって」

「インキュバスって一応分類的には悪魔だったか。いやー、でもここではクラスメイトなんだし、そんな畏まらなくていいと思うけどな」

 やっぱり魔王の娘ということもあり、同じ悪魔からは畏敬の対象になっているみたいだ。

 しかしこの特別扱いが、今の彼女の状況を生んでしまっているような気がするが……。

「そうだよ、レイン君! ユノーはそんなことで怒ったりしないよ!」

「……なんだ、ミッシェル。随分と親しげにマキャヴァリアスを呼ぶんだな」

 ユノーというのは、確かマキャヴァリアスのファーストネームだ。

「あ、実はユノーとは幼馴染というか、小さい頃から待女としてずっと身の回りの世話をしてきたので、ボク的には妹のような存在なんです!」

「そうだったのか、それは知らなかった。けど待女って……お前男だろう」

「……実は学校に提出している性別は嘘なんです。これもユノーを脅威から守るために仕方のない処置なんです。ほら、試しにここ触ってみてください」

「ちょ、何やってるんだ、お前……!」

 ミッシェルは自分の股間のあたりへと俺の手を持っていく。

 さすが異世界人だけあって、俺の何倍も力があるので抵抗しようにも抵抗できない。

 結果、俺の手はミッシェルの股間付近に到達してしまった。

 もうここまできてしまったら、本人の要望ということだし仕方がないな。きちんと性別を確認させてもらうか。

 男にしてはどう考えても可愛すぎると思ったが、まさか本当に女子だったとは。

 ———————もにゅもにゅ。

「いやんっ!」

「ちんちんついてんじゃねーかよ!!」

 指を動かして確認しようとしたら、ふにゃっと柔らかいアレが付いてました。

 触られたミッシェルは、顔を赤くしながら嬌声を発したので、まるで俺がセクハラしたみたいになっている。

「もぉー、まもるんのえっち」

「お前がやれって言ったんだろー!!」

「——————話は戻りますが、ボクにとってユノーは本当に妹みたいな存在で……。だから、先生の昨日の行動は……」

 突然、ミッシェルの表情はニコニコ顔から真剣なものに変化する。

 ……もしかして、そういうことか。

 ミッシェルがマキャヴァリアスの待女(?)ということは、昨日俺がマキャヴァリアスにしたことをヘラヘラ笑って許す訳がない。

 つまり急に話しかけてきたのも、昨日の仕返しをするために——————

「あー、小手指先生! スレイヤー君に昨日のお金返しましたかー?」

「まぁ、今日のところはいいです。……じゃあまた、まもるん?」

 ウルゥが元気よくこちらに向かってきたのを見て、ミッシェルは「これで最後じゃないですからね」というニュアンスの言葉を残して、自席に戻ってしまった。

「どうしたんですか、小手指先生? あ、レイン君おはよー」

「やぁ、ウルゥさん。また守さんを誘惑しに来たのかい?」

「またって何!? 一度も誘惑なんてしてないからね!? ……それで小手指先生、何かあったんですか? さっきのってミッシェル君ですよね?」

「いや、なんかまた嵐の予感がな……」

 何事もなければと思うが、そうはいかないんだろうなぁ。


「やったぜ、初任給ゲットだぜ!」

 コンビニのATMで、十数万の金を下ろし封筒に入れた。

 スーパーミラクル所沢学園で働き始めて約半月ほどが経ち、教師として初めての給料が口座へと振り込まれたのだ。

 平日は忙しくATMに立ち寄る暇がなかったので、今日土曜日に、休日手数料を支払いながらも振り込まれた給料を全額下ろした。おかげで口座残高は0と表示されている。

 さて、この金をどうするか。そんなの決まっている。

 貯金? いやいや、貯金できる人間なら給料を全額下ろしても残高は0にならない。

 俺は当然のように貯金ができない。宵越しの金は持たないってやつだ。

 じゃあ、両親へのプレゼント? そんな訳がない。初任給は父親に時計を……なんて時計業界の陰謀だから。金を使わせようってマーケティング戦略だから。

 両親への最高のプレゼントは、俺がこうして元気に生きてること、それが全てだろ。

 ドラ○もん『のび太の結婚前夜』でも、しずかちゃんのパパがそんなこと言ってたぜ?

 大事なのは気持ちだ。モノじゃないんだよ、モノじゃ。

 ……では何に使うか。まずは借金の返済だよね。消費者金融からいくらか借りてるし、あとカイムに借りた分も返さないとだからな。

 俺は絶対に借りた金は返す、堅実で義理堅い男なんでね(キリッ)。

 しかし、それを差し引いても金はいくらか余るわけだ。となったら、当然やるのは……ギャンブルしかないよな?

 というわけで、今日は久しぶりにお馬さんでも見に行きたいと思います。

 俺はギャンブルで勝ちも負けもしない能力を持っていると言ったが、長期的に見れば多少プラスになったりマイナスになったりはするのだ。暴走して大きな負けをした時だけに、それを補うような大当たりが出るみたいな感じ。

 なので、普通にギャンブルをやっている分には勝ったり負けたりで、一喜一憂することがある。というか、そうじゃなければギャンブルをやる意味がない。

 確率という平均台の上をフラフラと歩くのが、ギャンブルの醍醐味だ。

 俺は大怪我をしないというだけであって、擦り傷やら打撲なら余裕で経験している。

 そしてそれと同じくらいに、平均台を渡り終わった後の快感、脳内麻薬、脳汁が滲み出る感覚も知っている。

 恥を偲んで言おう。俺は完全にギャンブル依存症だ。だが、それでいい。一度しかない人生だ。刺激がないとつまらないだろ?

 というわけで、俺は初任給が入った封筒を手に駅に向かって歩き始めた。長らく特別行政区から出ていなかったので、久しぶりのシャバが楽しみで仕方ない。

 ちなみに初日に遅刻をしてしまった後、すぐ行政に申請をしたので手元にはきちんと許可証がある状態だ。これがないと自由に特別行政区を行き来できないからな。

「ん、あれは」

 駅前の広場で見知った顔を見つける。

 なんだ、あいつ……。明らかに挙動不審というかソワソワしている感じ? まぁ、声をかけないわけにはいかないみたいだな。

「どうした、ウルゥ」

「……うええぇぇ!? って、小手指先生!?」

 さすがに生徒を見かけたら声をかけないとな。そこにいたのはウルゥだった。

 つばが広い帽子を被り、ゆったりとしたワンピースに身を包んだオフの装い。

「どうしたそんな驚いて。何か悪さでもしようとしていたのか?」

「ソ、ソンナコトナイデスヨー」

「どう考えても動揺してるよな!? ほら、正直に白状しろ!」

「うぅ、実は……」

 ウルゥはポツリポツリと話し始める。

「なるほどな、特別行政区の外を見てみたいと。それで検問の改札を通らずになんとか駅内に侵入する方法がないかと探していた、ってことか。————コラ」

「イタっ!」

 一歩間違えたら大問題だぞ、という意味も込めて頭を小突く。ちなみに、軽く頭に手を置く程度でこれは暴力じゃないですからね(前回の件もあるので弁解しておく)!

「す、すみません……」

「初日のガイダンスでも言ったよな? 異世界人は基本的に許可がないと行政区の中からは出られないと」

「はい……。でもせっかくこっちに来たのにトウキョー(?)を見れないのはなんだかなーって、この世界でもトップクラスに大きい街なんですよね?」

 世界都市ランキングでも、「ロンドン」「ニューヨーク」「パリ」などと肩を並べる都市だからな、東京は。こちらの世界における文明を集約した街とも言えなくもない。

 異世界人にとって魅力的に映るのは無理ないが、いやしかし……な。

「確かに異世界人にとっては物珍しい街かもしれないし、俺だって出来れば連れて行ってやりたいけど……許可がなぁ」

「ですよね……、小手指先生はもちろん許可証があるんですもんね?」

「もちろん、今は許可証があるからな————————ん、今は?」

 そうだ、俺は最初に許可証を忘れて……理事長の久さんに……。

「もしかしたらなんとかなるかも」

「え、ほんとですか!?」

 許可証を忘れた日。俺は理事長の久さんにゲスト権限を付与してもらうことで、特別行政区への立ち入りを許されたのだった。

 その要領でウルゥにもゲスト権限を付与すれば、一時的ではあるが行政区の出入りが可能となるはず……!

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