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二人の青年

 翌日、賑わう街に出たポラリスは、城門前の広場を目指した。


 道ゆく人通りはそれなりに多く、興味深そうに街並みを眺めているのは観光客だろうか。ポラリスも同様に街並みと人々に視線を流す。


 星見で見た青年は、青みがかった透き通るような銀髪に、鮮やかな赤髪の二人だった。珍しい髪色なので、歩いていればすぐに見つかると思ったが、見当たらない。


 星見の映像はかなり明瞭だった。つまり、近い未来の出来事だということ。

 今日明日にでも見つかればいいのだが、小国といえども人を探すには広すぎる。



 太陽が南を通過し、西に傾き始めた頃――


「あの渓谷を越えるんだろう? あーあ、俺、高所恐怖症なんだよなあ。あの無駄に立派で長い吊り橋、年季も入っているし苦手なんだよなあ」

「そうなのか? それは知らなかったな」

「あー、その目は信じてないでしょう。いいですよ、さっさと行って視察を終わらせましょう。馬車の用意は整っていますよ」

「……渓谷に、馬車?」


 背後から聞こえてきた単語に歩みを止める。


「おっと……お姉さん、急に立ち止まったら危ないよ?」


 声の主は真後ろを歩いていたらしい。ポラリスはゆっくりと振り返り、目を見開いた。


 銀髪に、赤髪。


 ポラリスの後ろを歩いていたのは、星見で見たまさにその人たちだった。

 銀髪の青年は、肩につくほどの髪をゆったりとハーフアップにしており、赤髪の青年は短くさっぱりと切り上げている。


「大丈夫か?」


 銀髪の青年が心配そうに眉を下げながら、ポラリスの顔を覗き込んできた。

 宝石のように透き通った菫色の瞳。肌は白磁のように透明感があり、光を反射して輝いている。

 彫刻のような造形美に、ポラリスは思わず息を呑んだ。


「おーい? お姉さん、戻ってこーい」

「あ……ごめんなさい。大丈夫です」


 赤髪の青年がポラリスの眼前でヒラヒラと手を振ってみせ、ハッと我に帰ったポラリスは慌てて謝罪した。

 その様子にホッとした様子を見せたのは、銀髪の青年だった。


「よかった。この馬鹿がぶつからなかったか心配したよ」

「うわ、馬鹿って酷いなあ」

「うるさいぞ」

「へいへい、すいやせんね」


 目の前で親しげに軽口を言い合う二人を、ポラリスはしげしげと見つめる。


 やっぱり、昨日星見で見た二人だ。


 目的の人物があっさりと見つかって拍子抜けだが、まずは安心した。


「お前が道中につまめるものを買いたいって言うから買いにきたんだろう。予定より遅れているんだ、出立するぞ」

「えっ、あっ、待って……!」


 先ほど聞こえてきた会話から察するに、二人はこの後馬車に乗って渓谷にかかる吊り橋を渡る予定なのだ。

 そうと分かれば行かせるわけにはいかない。


「えっ……と、わたし、昨日この国に来たばかりで右も左も分からなくって、仕事を探しているの。どこに行けば情報が集まるか教えてくださいませんか?」

「そうなのか。ようこそ、アステル小国へ。この国はのどかで平和ないい国だよ。気に入ってくれると嬉しいな」

「ええ、もうすっかりこの国の虜よ。できれば長く暮らしたいと思っているのだけれど、そのためにはやっぱり働きたいなって思っていて……」


 ポラリスが必死で頼み込むと、銀髪の青年は少し考える素振りを見せて口を開いた。


「それなら、役場に行くといい。求職案内の掲示板がある。君に合う仕事が見つかることを祈っているよ」


 青年はそう言うと、ひらりと手を振ってポラリスの前から立ち去ろうとした。


 ああ、ダメだ。このままだと馬車に乗ってしまう。


 ポラリスはぐるぐると頭の中で策を練るが、妙案は浮かばない。遠ざかる背中を追いかけ、ええい! と思い切って青年の腕を掴んだ。


「ま、待ってください! えっと……その、吊り橋を渡ると言っていましたよね? すみません、会話が聞こえてしまって。詳細は言えませんが、吊り橋は間も無く縄が切れて崩れ落ちてしまいます。だから、馬車で橋を渡るのはおやめください」

「え? ……ああ、ありがとう。心配してくれているんだね。大丈夫だよ、あの橋は馬車にも耐える。これまでも何度も使って……」

「いけません! 前回と同じだとは思わないで。人が渡るたび、馬車が渡るたびに橋には負荷が蓄積しています。もし、もし今日、あなたたちが渡っている間に橋を支える縄が切れたら? あの渓谷は深いです。きっと落ちたらひとたまりもありません」

「えーっと……?」


 ポラリスは一息に、食い気味に訴えた。


 二人の青年はその気迫に圧倒されたように一歩後ずさる。怪しい女だと思われているのだろうが、なりふり構ってはいられない。


「だから、その……橋を渡るのはやめてください。吊り橋は定期的に点検していますか? もし前回の点検から日が空いているのなら、まずは安全を確認してください。お願いします」


 ポラリスは肩で息をしながら、ガバッと頭を下げた。

 往来でのやり取りに、人目が集まっているのが分かる。視線が痛いが致し方ない。


「あ、ああ……善処するよ」

「突然失礼いたしました。では……」


 伝えるべきことは伝えた。あとは二人を信じるしかない。

 彼らが、ポラリスを信じてくれることを。


 胸の前で手を組み祈るように頭を下げ、ポラリスは逃げるように役場への道を急いだ。


「なんだったんだ……?」

「さあ? とにかく、馬車が待っているんだし、行こうぜ」

「あ、ああ……」


 赤髪の青年は呆れたように肩をすくめ、銀髪の青年はポラリスが去った方向を気にしつつも当初の目的通り、馬車乗り場へと足を向けた。

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