パンキー
「世話ンなったなァアノウちゃんよォ……オレだよ」
アノウがテリオンの機銃掃射に阻まれて帰還できず、金塊邸勝手口付近の物陰に隠れているとき、そのテリオンから発せられるボイスを聞いて、あるパンキーな髪型とタトゥーの顔の奴を思い出した。
「……生きていたのかお前」
「おーよ、全治1週間のケガでよぉ……オメーにとりつけた盗聴器から流れてくるメッセージ聴きながらのリハビリはつらかったぜェ」
盗聴器──つまりこれは罠だったというわけか。
アノウはようやく察して、後悔や怒りよりもはやくどうサバイバルするかの方策を練りはじめた。
「1週間のリハビリぐらい我慢しろ」
「そうはいかねェ。オレがいないと泣いちゃうナオンがいるもんでヨ……」
その|中型の逆関節脚構造のテリオン《チキンレッグ》から短距離ミサイルがつぎつぎ放たれ、アノウの隠れ場をひとつひとつ潰していく。
「オメーの首ィ金に換えて持っていきゃァ泣きやむんじゃねェかってよォ……」
あきらかにそのパンキーは愉しんでいた。
この手のならず者傭兵にはよくある嗜虐癖だ。
「ちなみにいまの額はいくらだ」
「500万ターラーってとこかなァ……マァそこは交渉しだいってわけよ」
「おもわぬボーナスが手に入るから笑ってるな」
「そらそうよ。だからさァ、もうちょっと愉しませてくれや。ネズミ踏み潰すのが大好きなんだよオレは……」
「お上品な趣味だな」
「マスター……」
ちかごろのAIは音声に感情をこめることもできるのかとふとアノウは思った。
「わかってる。もう少しの辛抱だ」