襲撃
アノウは爆発音を聴くととっさに本能的に覚醒して、身を転がして地面にはいつくばる。
死神をつねに背負わされる戦場で身についた悲しい習性だ。
まずは、状況を把握しようと五感に集中する。
「方角としては表門の方か……?
バクスター藩主は敵が多いからな……」
まずは状況の見当をつけて、金塊邸から脱出するため、たちまち部屋を出て用務員用の勝手口へと向かう。
金塊邸内部の地図はテリオンのAIがアノウの脳に直接埋めこまれた通信端末にインプットしている。
その端末からロードされた地図を、これもアノウの脳を改造してつくられた認知表示に描画している。
だから基本的にどんな状況でもその地図を参照しつつ活動を行えるのである。
さいわい、このたびの爆発で、邸内は天地をひっくりかえしたような大騒ぎとなっていて、だれもアノウの素性をただっす者などいない。
おっとり刀で銃器を持ってかけつけてきた藩主の私兵が襟元をただす暇もなく、用務員の服を着ているアノウの横をすりぬけ、肩がぶつかっても藩主と敵のことしか頭にないようだ。
だが──
「アノウ、助けてください。襲われています。至急カイチョに帰還してください」