金塊邸
「バクスター藩主の私邸じゃないか!
よりによってそんなところ──」
「方策があります」
「なんだそれは」
「さきほどマスターが撃破した兵士──データによるとデリミタ・カントーレン──は、バクスター藩主の親衛隊の一員であり、金塊邸に出入りできる認証資格を有しています」
「……つまりそのデリミタとかいう奴になりすませと」
「はい。その認証資格は時代おくれの認証技術で構成されているため当システムでの偽造が可能です。
その偽造された認証資格で邸宅のセキュリティを突破し、その内部で休息をとる方策を提案します。」
「フン……まあ悪くはない」
***
金塊邸はバクスター藩領の中心部から離れたところ、ちょうどさきほどのアノウの戦闘領域の付近にある。
このテリオンなら巡行で10分ぐらいで行けるだろう。
しかし──
「大胆不敵なAI様だ」
アノウは鼻を鳴らした。
「だが音声認識もあるだろう。声のものまねもできるのか?」
「たやすいことです。背乗りのための方策と技術は数多く用意してあります」
「そりゃ心強い」
そのAIの言うとおり、たしかに金塊邸のセキュリティーはたやすく突破できた。
だが──。
「まるでゴミ処理場の焼却炉みたいな部屋だな」
アノウが背乗りしているデリミタという奴は、どうも金塊邸のゴミ関係の雑用係をしていたらしい。
「あてがわれている部屋までゴミみたいなものとはな」
とはいえ、まがりなりにも個室だったのは幸いだった。
アノウは深い眠りに落ちていく──。