睡眠
「聖遺物」のテリオン。
その言葉にギョッとしない者はこの世界にそうそういないだろう。
「本当か……?」
「はい、マスター」
セーマンドはなんら感情の起伏を感じさせない返答である。
「そして、そのテリオンの継承者にあなたが選ばれました」
「選ばれた……?」
「はい、マスター。あなたはこの神聖なるテリオンに課せられた試練を受ける選抜者です。これから、幾多もの試練が課せられるとは思いますが、それをひとつひとつ突破していかなければなりません」
「なんだそれは。ヘラクレス神話の再現でもするのか?」
「そのような解釈でおおよそ間違いありません」
「そりゃ面白い。ヘラクレスの追体験ツアーでもやるのか」
アノウはもう限界だった。
なにしろ、もう40時間も睡眠をとっていない。
普通の人間ならおそらく倒れているが、アノウの戦場で鍛えられた生存本能が、逆に興奮剤のような脳内物質を大量に分泌させ、あたかも起床時のような快活を保っていた。
だが、その快活はあくまで偽りのもの。
このような快活を戦場で繰り返してきたアノウにとって、もう身体がついていけなくなっていた。
「睡眠をとることをおすすめします、マスター。
あなたは極度の疲労にある。
突然死リスクが通常の30倍になっています」
「ここはバクスター藩の縄張りだ。どこにも安心して眠れる場所などない。おまえは睡眠不要だからわからんだろうが……」
気がきかないAIだといらいらしながら反論した。
「安全な場所ならあります」
「どこに」
「金塊邸です」
「金塊邸って……お前!」