聖遺物
なぜこのテリオンが動いているのかはわからない。
だが、たしかにたちまち歩行の仕方を覚え、機動の方法を身につけ、武器の取扱も習熟し、敵を撃破することができた。
習熟──たとえベテランでも新しい機体になじむには1週間はかかる。
なのに、なぜ──
「それがあなたの使命。宿命。命を救われたのもそのおかげです。さもなくばあの場で絶命していました」
「テリオン? お前はいったい……」
テリオン搭載のAIが、語りかけてくる。
「セーマンドとお呼びください、マスター。そしてこのテリオンの名はカイゼル」
「カイゼル……?」
アノウはほとんど野性的な直感で瞬間的に機体を動かし、不意打ちのミサイルを回避する。
さらにそのミサイルの飛んできた方向をカンで見定め、そこにXP中口径レーザーをうちこむ。
──手応えあり。
ただちにオーグメンターを吹いて射撃位置を変えて一発。
「最新鋭の迷彩か? 反応がなかったが……」
幸いだったのは、どうやらその伏兵はいまいち未熟だったようだ。
いつものように処理して、一息つく。
「AI、うっかりしすぎだぞ。ちゃんと探知しろ」
「セーマンドです、マスター。おそらくアトリマータ社製迷彩CQR-932と思われます。同社の最新鋭迷彩であり、既存のセンサーに対する……」
「言い訳はいい。それよりなんだそのカイチョというのは。そんな名前のテリオンなど聞いたことがない」
「当然です、マスター。本来そのような名前のテリオンなど存在しない。いえ、あってはならないのです。」
「ゼン問答か? ちゃんと説明しろ」
「『聖遺物』のテリオンです」
「なんだと……!?」