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舌を抜くのはこのわたし

作者: 一色 良薬

 ナガノさん、お久しぶりです。

 覚えていますか? 私のこと。えぇそうです、ワタナベです。

 よかったぁ。覚えていてくれて安心しました。

 七年もあなたの後輩として働いていたのに忘れられていたらどうしようと思っていたんです。

 そこまでナガノさんも非情じゃないですよね。

 ──ずっと忘れられなかった? やだなぁ。そんな熱烈な告白、照れるじゃないですか。

 あの時を思い出しますよ。ナガノさんが私に想いを伝えてくれた日のことを。

 残業が長引いて帰りが遅くなった私をナガノさんが送ってくれるって言って下さったんですよね。

 私は十回以上断りましたけれど、あなたは頑なに危ないから送っていくと引き下がらなくて。

 先輩の言葉を無下にはできませんからね。お言葉に甘えてあなたの車に乗ったら全然家に帰してくれなくて。

 灯りのない路肩にいきなり止められたと思ったら「好きだ、付き合ってくれ」と告げられてびっくりしましたよ。あのナガノさんが告白してくるなんて一ミリも予想していませんでしたから。

 私には無理ですとお伝えしても、強烈な愛の言葉を続けてくれましたよね。

 だから私はとにかく頭を冷やすために車から飛び出したのですが──。


 そのあと、私は死んでしまったのであなたがどういった処罰を喰らったのか。

 知らないんです。


 七年もしつこく後輩にセクハラしていたのがバレて左遷させられましたか?

 既婚者なのに粘着質に迫っていたのがバレて奥さんから離婚を切り出されましたか?

 周囲には事故だったと言っていた私の死の真相、しっかり隠せ通せましたか?


 正直私はあなたが現世でどういった罰を受けたのか。興味はないんです。

 ただ私はまた会える日を心待ちにしていたんです。

 ずっとこの地獄で。あなたが堕ちてくるのを。


 謝罪してくれなくて大丈夫です。怒っていないですし、恨んでもいないです。

 でもあなたの舌を抜くことは許してほしいです。

 あなたが地獄に堕ちた理由を裁くのは閻魔じゃなくて私でしょう?

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