3話 油断
走り続けて5分。体力のなさが災いして息も絶え絶えになりつつ走る。やがて森の外にたどり着いた。ほっと胸をなでおろす。
「なんとか森を抜けれたね」
同意しようとするが、息切れがひどくてそれどころではない。
「テレスももっと体を鍛えたほうがいいよ。魔法使いでも最低限の体力は必要だよ」
いつものように強気に言い返す余裕もなく、すぐそばの岩に腰掛ける。
苔が生えていて意外と柔らかい。
しばし休息をとったあと、立ち上がろうとすると突然岩が動いたように感じた。そんなわけ無いかと思い直して歩き出そうとした瞬間、背中に強い衝撃が走る。
「…っっ!」
声にならない悲鳴を上げる。
異変に気づき、マークが振り返る。
どこから現れたのか、衝撃の原因が大きな熊であったことに気づくのと、その熊の2度目の突進の激痛に耐えきれず意識を失ったのはほとんど同時であった…
ーーー気がつくとそこはベッドの上だった。内装を見るに、いつもの宿屋だろう。窓から入ってくる月明かりを頼りにキョロキョロと辺りを見回す。すぐそばに椅子がおいてあり、マークがそれに座って眠っていた。
「…マーク?」
マークが目を覚ます。寝起きでぼーっとしているのか数秒遅れて
「テレス!起きたんだ…」
その反応でどれだけマークに心配されていたかが伝わってくる。
「これ…」
いまいち状況をつかめず聞こうとする前にマークが答える。
「森を出たところでアースベアに襲われて、それでなんとか気絶してるテレスをここまで運んできたんだ」
アースベア…そうだ、突然熊が現れて…あの熊の正体はアースベアだったのか。あまり動かないのが特徴で、そのせいで体に苔が生えることもあるアースベア。それがまさに私が腰掛けていた岩の正体だったのだ。アースベアはエレメントビーストと呼ばれる属性魔力持ちの動物の一種。2人で倒したウィンドウルフもエレメントビーストの一種だ。普通の動物に比べると強さに天と地程の差があるエレメントビーストの突進を受けたと考えると気を失ったのも仕方ないと言える。だが…
「にしては私、そんなに怪我してる感じはしないけど…」
アースベアは動きが鈍重なかわりに力が強く、突進をまともに受けたらただでは済まないと思うのだが。
「それは…」
「あ!テレス起きてんじゃん!」
突然大声で叫びながら部屋に入ってきたのはグンマ…うちのパーティーの変人代表の戦闘狂。森に入るときになぜかお経を唱えていたやつだ。
「おーい!リオン!」
少しして目をこすりながら部屋に入ってきたのがリオン。森の前で眠りこけてたやつだ。
「あ、テレスおはよう」
のんびりという。
「怪我があまりないのはグンマが治癒してくれたからだよ」
グンマは僧侶。たしかに回復はお手の物だろう。戦闘狂の困ったやつだがこういう時には頼りになる。何があったのかをグンマとリオンに説明しようとしたが、眠気に抗えない。3人に見守られている安心感の中で、私はまた眠りに落ちた…
よろしければブックマーク、下の星評価いただけると大変励みになります。
よろしくお願いします!!