2話 脱出
たどり着いた結論。
「…この森全体が魔力源なんだと思う」
ありえない話ではない。目には見えないがマナラインと呼ばれる魔力の川のようなものが地表にはある。本来それは微弱なもので、魔力の流れとして察知できる程のものではない。だが稀に複数のマナラインの合流点にマナスポットと呼ばれる魔力の溜まり場が生まれることがある。マナラインを川に例えるなら、こちらは湖といったところだろうか。
そしてマナスポットには魔力を持った生物や魔物ーいわゆるモンスターだーが集まることが多く、しかも大抵普通のモンスターよりも強い事が知られている。
「と、とりあえず森から出よう」
マナスポットに集まる生物は気性が荒いことが多く、半人前の2人では少数相手ならともかく、群れ相手ではかなり危険だ。
踵を返して走り出した矢先、突然右腕に鋭い痛みが走る。とっさに腕を抑える。だが、今度は腕の内側に痛みが走る。
痛みに顔を歪めつつ振り返ると、そこには白銀の毛並みをした狼が間合いを測るように立ちはだかっている。
「初心者殺し…」
マークがつぶやく。
「と…とにかく逃げよう!」
腕を抑えて必死に走りながら、あの狼のことに考えを巡らせる。ウィンドウルフ。通称初心者殺し。狼のような見た目なのでナメてかかった初心者冒険者が返り討ちにあうことが多く、そう呼ばれるようになった。狼にしては知能が高く、風の魔力を自在に操ることができる。怪我をさせて傷口から魔力を流し込み体の内側から破壊していくというのが常套手段。さっき私が食らったのもそれだ。また、このウィンドウルフはもう一つ特徴があり…
「くそっ、もう追いついて来たのか…」
…極めて足が速いため普通の冒険者、ましてや初心者の冒険者では逃げ切ることは難しいということだ。
マークとウィンドウルフがにらみ合う。ウィンドウルフは慎重にこちらの様子をうかがっている。マークに合図を送り一斉に逃げ出す。が、追いつかれるのに大して時間はかからなかった。
「これは…逃げ切るのは難しそうだね…」
同感だ。ただでさえ素早いウィンドウルフ。しかもこちらは昼だというのに薄暗い森の中では思うようには走れない。軽率にも2人を置いて来てしまったことを後悔しつつつぶやく。
「もう…戦うしかないね」
それが合図であったかのように戦闘モードに切り替える。マークは無骨な鉄製の大剣を正面に構える。いつもの穏やかさはどこへやら、表情は真剣そのものだ。私もいつでも詠唱ができるよう深呼吸をして正面を見据える。途端に恐怖心が薄れ、冷静になっていくのが分かる。
次の瞬間ウィンドウルフが消えた。カキンという音で遅れてウィンドウルフがマークを爪で切り裂こうとしたことに気づく。力では敵わないのか、ウィンドウルフは少し後ろに引く。その隙にすかさず詠唱を始める。
その形は定まらずしてその役は剣
途中ウィンドウルフが噛み付いてこようとする。が、身を翻したマークに阻止される。
総てを焦がし貪りつくしたまえ
詠唱を終えると3つの火の玉がウィンドウルフに襲いかかる。
第二階梯魔法の一つ、焦炎。2文での詠唱が必要となるため利便性は低いが、そのぶん火力はけして低いものではない。
炎に焼かれ、ウィンドウルフは苦し紛れに炎から飛び出す。そこにマークが剣戟を叩き込む。
程なくして火が嘘のように消えるとそこには絶命したウィンドウルフが倒れ伏していた。
「やった…」
マークのつぶやきで我に返る。と共に右腕の傷の痛みに苦痛の声を漏らす。
「…テレスって戦ってるとき人が変わるよね」
「そう?そうでもないと思うけど」
そんなことより今は森を抜け出すことが先決だ。都合よくポケットに入っていた布で止血をしながら森の外に向け走り出した。
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