1話 はじまり
「どうしてこんなことになったんだろう…」
「こんなことって、何が?」
すぐ横にいたマークが聞き返す。正気なの?
「どう考えてもこの惨状のことに決まってるでしょ」
「あー…うん…やっぱ現実だよねー」
「夢であってほしかったけどね…」
憧れの冒険者にせっかくなれたのに…これからのことを考えると頭が痛い
「ほら!もうさっさといくよ!」
「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時。照見五蘊 皆空。度一切苦厄…」
これが頭が痛い理由その1。冒険者として初の依頼を受けて森に入るというのに、どこに座り込んでお経を唱え続けるやつがいるのか。いや、いない…はずだったんだけどね。
「もういいよ、こいつはほっといて3人で行こうか」
「で、そのもう一人はどうするつもり?」
「zzz…」
これが頭が痛い理由その2。冒険者として初の依頼を受けて森に入るというのに、どこにぐっすりと寝こけるやつがいるのか。いや、いない…はずだったんだけどね。というか依頼内容のメモを取り出して確認してる1,2分の間にここまでぐっすり寝られるのは逆にすごい。
「まぁこいつに関してはいつも通りだけどね」
「もう二人で行こうよ」
パトロール程度なら2人で十分なはずだ。
「そうだね…ちょっと待ってて」
「ん?マーク?何してるの?」
「…これでよし、と」
見るとリオン…もとい寝坊魔に布団がかけられている。
「…優しいんだか冷たいんだか」
「さ、じゃあ行こうか」
そう言って2人は森に入っていった。
「…ところでなんで僕は盾にされてるのかな」
マークの声に少し棘がある。
「…やっぱりバレた?」
「そりゃ後ろからこれだけ抑えられてたらね」
言われてみると、右手と左手がマークの肩にある。
「…いやだって私後衛職だし?」
「離さないなら後ろ向きに進んでもいいんだけど?」
「そしたら反対側に回るけど」
そんな軽口を叩いていると、空気が変わったのを感じた。魔力を感じる。魔力は人間でも獣でも、大地や風でさえも多かれ少なかれ持っている。だから魔力を感じるのはおかしいことじゃない。だが…この魔力にはなにか、荒々しいものを感じる。
「…なんか、変な感じしない?」
「え?マークも気づいたの?」
戦士が魔力に気づくというのは珍しい。一般に物理職は魔力察知が鈍いとされている。
「なんか、変な魔力が流れてるような…そんな感じがするんだよね」
「うーん…」
「魔力がどっから流れてきてるのか調べてみてくれない?」
「じゃあその間ちゃんと周り見張っといてね?」
「…自分の身くらい自分で守れると思うのですが」
マークが呟く。
「そんなことないよ。だって私、か弱い女の子だし?」
即答する。私は身体能力でならちびっ子にも負ける自信がある。
「”か弱い女の子”…?テレスが?」
「ん?何か言った?」
「はぁ…わかったよ」
マークが諦めたように言う。
「じゃあ周りは見張っとくから」
それを聞いて魔力の流れをつかむために目を閉じて集中する。
「どう?分かった?」
「んーと…あれ?どこだろう」
魔力の流れを想像してみるが、その源が見つからない。
「どういうこと?魔法使いって魔力の流れが分かるんじゃないの?」
魔力が流れているのに魔力源が見つからない。やがて1つの考えが像を結ぶ。
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