第十七話 なぜ第二王子の周りが騒がしい③
たんぱくな理由は・・・。
フェリクス殿下が浮かない表情になっている。
「・・・つまりは、私の用意した護衛は要らないと言われるのですね?」
「・・・」
一瞬迷ったが、やはり断ることにする。
「どうなのです?」
「・・・必要ありません。宿舎には義両親の護衛騎士も大勢居ります。外出時の護衛は私が言うのも烏滸がましいですが、手練れですので」
「・・・心配しているのですよ」
やけに食い下がるな。
「・・・何にです?」
私が感情を込めることなく尋ねた言葉に、フェリクス殿下は一瞬眉をしかめた。
「・・・いえ、そこは『何に』ではなく、『何を』と聞いて欲しかったですね」
「・・・」
そこ?気になるのはそこか。
「確かに私に比べ、あなたの剣の腕は優れているでしょう。それは間違いない。ですが、あなたは私の婚約者。私があなたの身を案じるのは当然ではないですか?」
いつもはこれほどはっきりとは意見を言わないのに、今回に限って語気が強い。・・・この人は何を知っているんだろう?
「あまりに唐突ですが、私の剣の腕、ですか。・・・何か荒事が起きると?」
私がフェリクス殿下を見据えると、殿下は目に見えて慌てだす。
「あ、荒事など・・・。わかりません。・・・ただ皇国が国境に軍を配備し直したようですから、アリオスト王国にも余波があるかと」
そんなことが?ちらりとカイサを見ると、カイサは眉をしかめる。・・・聞いていないと言うことか。
「皇国の動静がなぜ私に係るのです?」
わからないふりが良いか。
「・・・いつも疑問を持っていました・・・」
ううん?何か違う雰囲気だ。
「何がです?」
「・・・あなたにとって、私は何ですか?」
「何とは?」
「・・・どうでも良い存在ですか?」
「そうではありませんが」
『おおっ、何か怪しい展開だな』『カール、お前もう口を開くなよ』『なんで、こんな奴が護衛なんだ』『言われてる俺にもわからん』『こいつ、自分の事なのに』『黙ってなさい!デバガメみたいなことをして!』・・・順番に言い合いするな。だが、最後のカイサの一括で静かになった。
「・・・あなたを案ずるのも必要ありませんか?」
フェリクス殿下。私の周りの喧騒は聞いていないみたいだね。まあ、どうでもいいことか。
「案じてもらえるのはありがたいことです」
「・・・ありがたいこと・・・ですか・・・」
何を言いたいのだろう・・・?
「?ありがたがるなとでも言われるのですか?」
「違う!私はあなたの何だ?」
「フェリクス殿下は私の婚約者ですね」
「そうです!私はあなたの婚約者です!・・・私をもっと頼って欲しいのです」
「頼る?フェリクス殿下を頼る・・・ですか?」
「私はあなたに選んでもらい、そしてあなたと一緒に暮らす。私はあなたを愛し、愛される。それを夢見ているのに、なぜあなたは私に対してつれないのですか!」
・・・なに?愛?・・・この人、政略なのに愛を求めてる?よくわからない・・・。
「・・・少し見解にずれがあると思うのですが、」
そう言って、私は咳払いをする。
「あなたと私は政略結婚のためのモノで、婚約に関してもあなたを政略で紹介されて、私が了承したと言うだけです。・・・そこに愛が介在するいわれはないと思うのですが?」
私以外が凍り付いた・・・と思う。カイサも、私の三人の護衛も、フェリクス殿下とフェリクス殿下の連れて来た者たちも。
『・・・気がなくても、それはまずくないか』『種なしじゃなければ、愛など要らないってことか・・・』『そ、そうか?そうなのか?』『ま、まて!お嬢様は愛など恋などと言う言葉は知らんとかじゃないのか?』『お嬢様は感情がないとかじゃないか』『まさか本当に愛する男がいて、身分が違いすぎるからとかじゃないか』・・・護衛ども、早口でまくし立てるな!うるさい!
「・・・お嬢様、そんなお気持ちでいつも接しておられたのですか」
ふらりとよろけるカイサが、目を見張りながら私を見ている。カイサはあの護衛どもの話は聞いていないのね・・・。良いのか悪いのか・・・。
「ああ、そうよ、カイサ。あの話は、母様が持ってきたフェリクス殿下と婚約をしろと言う命令でしょう?それなら、私に拒否する権利はないから。当主の言うことは絶対でしょう?」
再度回りが凍り付いた。
『・・・ああ、陛下・・・、お嬢様は、陛下のお気持ちを全く曲解しておられます・・・』
カイサが思わず呟きを漏らしたが、私には意味が分からなかった。
「まあ、アランコの第三王子はさすがにあの自分勝手すぎる考えは無理だと思ってお断りしたけどね?そうしたら、もう後はフェリクス殿下しかいないじゃない?」
「・・・」
「私は選り好みができる立場じゃない。言われたことを次々こなすだけの立場で、そこに感情は必要ないから」
フェリクス殿下はしばらく呆然としていたが、やがて曇った表情で私に話しかける。
「私と婚約しろと言われたから婚約したと?」
「その通りです。フェリクス殿下は母が婚約しろと命じたお相手です。私にはそれを拒否する権利は持ちません。・・・そこの護衛が言うように、私は後継ぎさえ産めれば良いのです。そこに愛などは必要ないと思います」
「・・・わ、笑いかけられても作り物めいていたわけが分かった・・・」
「何か仰いましたか?」
「い、いえ、な、何も・・・。唐突で悪いのですが、用事を思い出しましたので、今日は戻らなければならなくなりました。ま、また、ご連絡いたします。そ、それでは」
呆けた表情のまま、フェリクス殿下はぎこちなく礼をすると、踵を返す。力なく連れてきた男性達を手招きして、そのまま歩き去って行った。・・・男性たちの中には私に向け、異様に鋭い視線を投げた者も居たが、結局何も言うことなく、幽鬼のようなふらふらした足取りのフェリクス殿下の後について行った。
完全に意図した内容から離れてしまいましたが、この内容も書かなければと思っていたのでこのままで。




