私の学術院入学とハワード王太子の決意
それから数日が経ち薬の効果が徐々に現れケールズ領では目に見えて進行が食い止められ皆が快方に向かっていったと報告があった。
お父様から教えてもらった私は嬉しくて涙が溢れた。
自分の仕事が前世を含めて初めて成果として満たされたからだ。
まだ13歳なのにと皆に言われるがそこは敢えて聞かなかったことにする。
お父様から
「明日、王城にて陛下より御言葉をいただくこととなった。ジュリアンは何も心配することはないよ。此度のお褒めの言葉と何か褒美があるかも知れないね。
もちろんお父様からもジュリアンの欲しいものをプレゼントしよう」
「お父様、私は王立の図書館に行きたいです。まだ学院にも通っていない者は入場を禁止されているとのことですがこれからを考え勉強したいのです」
私の研究者魂がうずうずしている。
今回の成功体験は私にとってとても大きなものだったのだ。
「んー。それはお父様の一存では難しい。明日、陛下に直接頼んでみるのはどうだろうか?」
「ハイ!もし何か褒美と言われたら王立図書館に通えるようにお願いしてみます!」
翌日、私はお父様やお母様そしてメイドのアリーを乗せた馬車で王城に向かった。お兄様は私たちを見送るとすぐに出かけるそうだ。
馬車から降りようとすると目の前にハワード王太子様がいらした。
ビックリして固まっている私にふんわり微笑んで手を差し出してくださった。
私は迷ったが・・・そっと王太子様の手に自分の手を乗せゆっくり馬車から降りた。
そして王太子様は何故か私の手を自分の肘に挟んでスタスタと歩き出す。
???が頭の中にいくつも出て困惑している私をお父様とお母様は苦笑いして見ていた。
陛下の謁見の場ではカーテシーをし、お許しが出てからゆっくり顔を上げる。
陛下はニコニコ笑い私にお褒めの言葉と褒美の話をしてくださった。何が欲しいか聞かれた私。
私は一度お父様を見て意を決した
「恐れながら…もし願いが叶うなら王立図書館の入場を許可していただけませんか」
精一杯大きな声でハッキリ言ってみた。
「ハッハッハッハ、なんとも慎ましい願いではないか。良かろう。ジュリアン嬢にはいつでも王立図書館の入場を許可しよう。また知識を蓄え我が王国に貢献してほしい。他には何かないかな?」
「い…いえ…充分です」私は赤い顔で小さく返事する。
もう頭の中がいっぱいだ。
それから庭園に行き国王陛下と王妃様、そして王太子様と私たちはお茶と宮廷式の美しいお菓子を食してゆっくり過ごした。
帰りお花摘みに行き家族と離れた時、柱の陰から公爵令嬢のソフィア様が顔を出した。
「お久しぶりですわ。ジュリアン様。随分とご活躍だそうですね。三年前からしたら少しは成長されたのかしら。ジュリアン様も知っての通りハワード様の婚約者はこの私よ。腕に手を絡め登城するなど些かみっともないですわ。少しは慎みなさい。まぁ〜次にハワード様の側をウロチョロとしたらどうなるかしら〜」と、激しくキッと睨まれる。
「!!…ハ、ハイ。申し訳ありませんでした」私は急いで頭を下げた。爵位もソフィア様の方が上、歳も15歳と上でこちらが低頭平身然るべきだと思ったからだ。
その時、ソフィア様は小さな声でブツブツと・・・
「あの魔力暴走で死ねば良かったのに・・・」
私は聞きとれず
「えっ?・・・」と顔を上げたが
私のメイドのアリーが近づくとソフィア様は近くの部屋に入ってしまった。
(はぁー今何を?・・・困ったなぁ)私は小さく嘆息した。
そんな私たちをこっそり見ている影があった。
それから一年弱。
気がつくと明日から私も学術院に通うことになった。
約一年弱と王立図書館にも通い魔法の解析や王都の歴史を学び淑女教育として勉学他ピアノや刺繍にいずれ嫁ぐ先の手助けが出来るよう領地経営も学んだ。市井の生活や侯爵家の生業など気になることには積極的に学んでいった。
学術院では同じ歳の友達を作りゆくゆくは領地の助けとなる縁を結べればと思っている。
学術院は14歳から20歳までならいつでも通え4年間で大凡の履修終了となる。
後はもう少し深く勉強するなり少しの間学術院には通わず一度世間に出て再び通うことが出来る。
実はハワード王太子は14歳のあの日、ケールズ領の指揮の後、学術院を休学されていた。
私は学園歓迎の式で挨拶をされるハワード王太子様のお言葉でその事を知った。
「今年も新たに加わった友たちを歓迎する。私はこの一年休学しこの国のあらゆる場所に行き後々政務をする大きな助けとしたいと思った。諸君も回り道をするも良いし一直線に目標に向かうも良いし大きな力を手にしこの国の一助となるよう励んでほしい」
盛大な拍手を受けるハワード王太子と何故か一瞬目が合った気がした。
◇ハワード視点
ケールズ領の時に久しぶりに会ったジュリアン嬢に驚かされることばかりだった。小さな思い出の彼女はただただ穏やかで凪のような心の温かさのある女の子だった。
ストンと小さな音を立てて落ちた淡い初恋の君だった。それなのにケールズ領の事では胸に使命感の炎を燃やして懸命に働く姿に衝撃を受けた。私には思いもしない発想や機転で見事に問題を解決した。
このままではいけない!私ももっと精進して力をつけねば…そうせねば彼女の隣には並べない!父王に私は暫く休学し国を周り、中からだけではなく外から王都や各領地を周り自分の糧となる時間をもらう事にした。
しかしそれがヴァロス公爵家の悪事の発見や証拠そしてジュリアン嬢の魔力暴走のことを見つける手掛かりに繋がるとは思いもしなかった。
ただ表面上には何も問題のない貴族、士族の領地なのに身分を隠した私が暫く滞在して調べてみると見えてくるものがあった。爵位の低い貴族領ほどヴァロス公爵家の手のものが行き来している。
何日か部下の者に張り込んでおくよう言うと荷物を積んだ荷車が何台か運び出されている。
私は身分を明かし領主達に事情を聞くとヴァロス公爵家より言いがかりをつけられ領民を守る為に作物の一部を納めていると言っていた。
「何故、王家に訴えないのか!」と聞くと「こんな遠く離れた小さな領地のものがヴァロス公爵家に見つからず王家に訴えるなんて・・・恐れ多い・・・」私はここでも自分の無力さと王家の管理の難しさを痛感した。
そしてヴァロス公爵家の卑しい俗物ぶりを決して許さないと誓うのだった。
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