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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ストレンジな掌編保管庫

【短編】天敵狩り

作者: 雷電鉄

 居酒屋。

 ()()()()は、何食わぬ顔をして俺の隣に座っていた。いつも通り、下卑た笑いを発しながら。


 「こいつさあ、経理課の○○と話す時、いつもキョドってるんだぜ。笑えるよなあ」などと店員の前で言いながら、バシバシと俺の背中を叩いてくる。

 止むを得ずこいつと同じ職場で働いているとはいえ、実に不快な気分だ。

 だが、そんな顔をしていられるのも今日までだ。


 俺は、そいつが俺以上に酔っているのを確かめると、意を決して店の外に出ようと誘いかけた。そいつは、「何だ?お前の方から誘ってくるとは珍しいじゃねえか」などと言いつつも、まんざらでも無さそうな顔で俺に従った。

 周囲の者が、そんな俺たちを不安そうな目で見つめる。

 居酒屋のTVからは、「××地区に人間に擬態した宇宙生物が侵入しているという情報が流れてきました。<宇宙生物対策法>により、宇宙生物の兆候を見せた者は人類の天敵と見なし、殺しても罪には問われませんが付近の方はくれぐれもご注意下さい・・・」という声が聞こえてきていた。


 二人で店の外に出た。「おい、どこまで行くんだ?宇宙生物騒ぎで物騒なんだから、あまり遅くならないようにしろよ」などと白々しいことを言うそいつを無視して、俺は夜の街を進んでいく。

 やがてネオンの明かりは減って闇が濃くなり、周囲から人気が少なくなってきた。俺はそれを見計らってそいつと狭い路地に入った。


「おい、一体こんな所で何をするつもりなん・・・」


 俺はそいつの言葉を遮るように口を開いた。


「ここなら、安心して()れる・・・」

「ああ?勘弁してくれよ、『やれる』なんて、俺に()()()()()()なんてねえよ」


 そいつは軽薄な笑いを浮かべながら言った。全く、最後まで下劣な奴だ。

 だが、夜の闇の中に浮かんだ俺の表情を見るとそいつの顔から笑みは消え失せて行った。


「てめえ・・・まさか俺のことを宇宙生物だと疑ってやがるのか」


「黙れよ、この異生物め」


「テメエ~~~~~!!」


 俺の言葉を聞いて、予想通りにそいつは激昂して拳を振り上げてきた。

 普段なら食らっていたかもしれない。だが、酔いが回っている今のこいつの拳は、すんでの所でかわす事ができた。

 ふらついている同僚、いや、その生物の心臓と思われる場所に俺は隠し持っていたナイフを突き立てた。


「グブッ!?」


 瞬く間にシャツは赤く染まり、そいつは地面に倒れ込む。

 そして、さっきまで人間の姿をしていたそいつの体は、あえなく只の肉塊へと変わり果てた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 俺は、周囲に誰もいない事を確認すると擬態を解いた。人間の肌は消え、青緑色の素肌が露になる。

 やはり、この姿の方が落ち付く。それに、あの酒という奴はどうも俺の体には合わないらしい。まだ少し頭が痛む。


 俺は、目の前で冷たくなっているさっきまで同僚だった人間の体を見た。

 全く、無理やり酒を飲ませるわ、人の目の前で俺を馬鹿にするわ、酒の席でくだらない武勇伝だかを語り出すわ、ろくでもない男だった。

 だが、世の中が変わったことで、ようやく俺も目障りなこいつを始末する決心がついたのだ。


 俺は改めて周囲に誰もいない事を確認した。

 宇宙生物対策法が施行されて以降、人間の中に紛れ込んだ我が同胞を排除せんがための誤認殺人はあちこちで起きている。これもそのような死体の一つとして処理されるだろう。

 万が一犯行が明るみになったとしても、この国の法律では、「宇宙生物を排除するためにやった」という事にしておけば罪は軽くなるに違いない。


 全く、人間という物は実に愚かだ。我々には人類の天敵になり得るほどの力も、むろんその意思もないのに、その偏見によって自らの首を絞めて行っているのだから・・・





言うまでもありませんが、岩明均先生の「寄生獣」が無ければこの作品は存在しませんでした。

ちなみに、本編では触れてませんが身分証とかは偽造するスキルを持った宇宙人が力を貸しているという設定です。

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