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第82話 家族は最初の他人

「まあ親父はよくやってると思うよ……今の甲武の体制よりは少しはましな民主主義の実現に向けて頑張ってる……褒めてやってもいいかな」


 かなめはそう言うと銃をホルスターに収めた。


「ふーん。かなめちゃんはお父さんを尊敬してるんだ」


 アメリアが冷やかすような調子でそう言った。


 戦闘用人造人間である彼女に両親などいないことは分かっている。誠は少しばかりかなめの答えが気になって視線をかなめに向けた。


「尊敬ねえ……たいしたもんだとは思う。戦争中は謹慎処分だったのに、ひとたび腰を上げると簡単に戦争を止めちまった伝説の外交官。貴族の最高の位をアタシに譲って『平民宰相』を目指して『普通選挙』実現のために頑張ってる……でもなあ……尊敬ってのとはちょっと違うんだよな……」


 かなめはそう言いながら再び葉巻をくわえた。どこか釈然としない。どこか父親と微妙な距離を取っている。誠にはかなめの言葉がそんな風に聞こえてならなかった。


「こいつの家族はどれも個性的過ぎて理解不能だ。神前、貴様は家族はどうなんだ?」


 それまで静かに話を聞いてきたカウラがそう話を振ってきた。


「僕の家は……父さんと母さんと僕の三人家族ですよ。普通です……って父さんが全寮制の私立高の体育教師をしているので、ほとんどうちにいないことくらいですかね、特徴は」


 誠は珍しくまともな話を振ってきたカウラに笑顔でそう答えた。


「親父が教師で、母ちゃんが主婦か……普通だな」


 かなめがつまらなそうにそう言った。


「主婦っていうか……うちの母は剣道道場を経営していまして、そこの師範なんです。『神前一刀流道場』って言うんですけど……まあ町の子供達を集めて剣道を教えているんです」


「あれか?親父の体育も科目は剣道か?」


「そうですけど……なにか問題でも?一応全国大会とか出たことありますよ……5段ですし」


 確かめるように聞いてくるかなめに誠は少し不満そうにそう答えた。


「出会いも剣道。話題も剣道。仕事も剣道……なんだかつまんねえ家だな」


 吐き捨てるようにかなめはそう言った。


「なんですか!テロリストに狙われる家よりよっぽどましじゃないですか!それにうちでは剣道の話題はほとんど出ませんよ!」


 ムキになって誠はそう反論した。


 カウンターには次の焼鳥の盛り合わせが並べられた。誠はまず砂肝を手に取るとビールを飲み干した。


「まあまあ、いろいろあるのよ、かなめちゃんも。それと島田君には家族の話題は振らない方がいいわよ」


 アメリアが誠の空いたグラスにビールを注ぎながらそうささやいた。


「なんでですか?」


 少し妙な言い方をするアメリアに誠はぼんやりと尋ねた。


「まあ、ヤンキーの家庭なんて複雑に決まってんじゃない。アタシが知ってるのは年の離れたお兄さんに育てられたってこと。しかもお嫁さんとはかなり相性が悪くて、大学入学以来一度も実家に帰ってないって話くらいかな」


 アメリアは寂しげにそう言うとサラとパーラを隣に侍らせて大爆笑している島田に目を向けた。


「家族とは……いろいろあるんだな」


 カウラは豚串を食べた後、そうつぶやいた。


「まあな、それぞれ色々あるんだわ。オメエ等いいな、そんなめんどくさそうなのと無縁で。親父やお袋なんて家借りるときの保証人くらいの役にしか立ってねえぞ、うちなんか。後は被害ばっか」


 かなめは相変わらず悠然と葉巻をくゆらせながらそう言った。


「でも、一応生んでくれた恩とか、育ててくれたこととか」


「アタシが頼んだわけじゃねえよ。特にこんな体になってからは特にそうだ。それにアタシは実家の屋敷の見物収入がでかいのと、さっき言った貴族の最高位になると貰える荘園の収入で好き勝手やれんの。まあ、『無職』になるとそれもパーになるから仕事はしてっけど……両親に育てられたなんて自覚はねえよ」


 なんとか取り繕うとする誠の言葉にかなめはつれなくそう答えた。


「私も……家族ってほしいとは思わないわね。まあ、うちの部隊で家族にいい思い出があるのは少数派なんじゃないかしら。運航部の女子は全員『ラスト・バタリオン』で人工的に作られた存在だから家族なんていないけど……技術部の連中も聞いてみるとあんまりいい話は聞かないわよ。家族にいい思い出があるならうちみたいな『特殊な部隊』には来ないんじゃない?」


 アメリアはそう言いながらビールを飲み干した。


「注ぎますよ!」


 誠はそう言ってビールを注ぐ。


 いつの間にか島田達が馬鹿話をやめて誠達の方に目をやっていた。


「いいんじゃねえの、家族なんていたっていなくたって。『家族は最初の他人』だぜ。世話になったのは事実だが……それに縛られる義理はねえわな」


 かなめはそう言って最後のねぎまを食べ終えた。


 それから先はどうも話が弾まなかった。サラと島田の馬鹿笑いとパーラのツッコミが店内に響く。誠は黙って皿に置かれた竹串をいじりながらビールを飲み干していた。


「じゃあ、終いとするか……島田、ちっちゃい姐御にいくらか貰ってたろ」


 気まずい雰囲気の中、かなめは葉巻を灰皿において立ち上がってそう言った。


「三万出してくれましたけど」


 島田はそう言ってズボンのポケットからしわだらけの封筒を取り出す。


「春子さん!三万で足ります?」


 そう言ってかなめはそのまま島田から奪い取った封筒を手にレジの方に向かった。春子はカウンターの向こうでレジに向け歩き出すのが見えた。


「誠ちゃん。まあ、うちでは家庭的に幸福な誠ちゃんは結構レアな存在なわけよ。それだけに欠かせないの……がんばって」


 誠は立ち上がろうとしたところをアメリアにそんな言葉をかけられた。


 誠はただアルコールの酔いに任せて静かにうなづくしかなかった。

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