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第78話 意外な才能の開花

「神前のアサルト・モジュール操縦が下手って話は……嘘かよ……」


 西園寺かなめ中尉はそう言いながらシミュレータの扉を開けた。


 今回のシミュレータを使っての模擬戦は誠とクバルカ・ラン中佐対西園寺かなめ中尉と第一小隊長カウラ・ベルガー大尉の対決だった。当然、飛び道具はありで、誰もが誠を戦力に数えていなかった。


 しかし、始まってみるとその予想は完全に裏切られるものだった。


 ランは後方で230mmカービンでの牽制射撃をするばかりで前に出てくる様子はなかった。


 対するかなめチームは突進してくる誠機にカウラが指向性ECMによる電子戦を仕掛けるが、なかなか誠機をとらえることができなかった。


 焦ったかなめが前進してきたところにランが狙いをかなめに絞り、『サイボーグ』対『人類最強』の銃撃戦が展開されることとなった。


 一方の誠とカウラの方はなかなかの熱戦となった。


 ともかく手持ちの230mmカービンライフルを全く使うつもりのない誠が接近するたびにカウラはダミーや電子攻撃で煙に巻くという繰り返しで勝負がつかない。


 しかし、かなめの相手をしながらその様子を観察していたランのかなめの隙を突いた230mmカービンの一撃でカウラが落ちると形勢は一気に誠チームに傾いた。


 一対二で不利になったかなめはランの230mmカービンの狙撃から逃げつつ、光学迷彩を駆使してランを撒きにかかった。しかし誠機を狙って230mmロングレンジレールガンの一発の発砲位置からランに潜伏場所を割り出されて撃墜された。


「確かに……射撃が『アレ』なのはともかく……回避も格闘戦も『使えない』と言うわけでは無いな」


 すでにシミュレータから降りてスポーツ飲料を飲んでいたカウラの言葉に誠は照れながらシミュレータから降りようとするちっちゃな上官であるランに手を貸した。


「そんなもん決まってんだろ?元々適性の高いパイロット候補しか教育したことのねー東和宇宙軍の教官にはこいつの良さを見る目がねーんだ」


 誠の手を借りながらシミュレータから降りたランはそう言って笑った。


「確かにこいつ運動神経はそれなりにあるし、動体視力も人一倍だからな……まあ左利きなのが欠点か……」


「西園寺さん。左利きだと何か問題があるんですか?」


 歩み寄ってくるかなめの姿をまじかに見ながら誠はそう尋ねた。


「まあ、兵器ってのはほとんどが右利き用に設計されてるんだ。銃だって基本的に薬莢は右側に飛ぶようにできてるだろ?」


 かなめはそう言っていつも手にしている愛銃XDM40を取り出してその弾の薬莢が飛び出す部分を指さした。


「それだと……どうなんですか?」


「左手で撃つと最悪、撃った後で薬莢が顔面に直撃……なんてことがあり得るんだわ。特にブルバップライフルは左利きが構えると顔面にフルオート射撃で焼けた薬莢が直撃して大変なことになる」


 誠は自分の左手をまじまじと見た。


「……あのーいいですか?」


「なんだ?」


 ぶっきらぼうにかなめが誠をたれ目でにらんでくる。


「ブルバップライフルってなんです?」


 軍に入りたくて入ったわけでは無い誠の質問に一同はただあきれ果てていた。


「銃の機関部を引き金を引く手より後ろに設定した銃のことだ。機関部が銃のストックを兼ねる形状になるからコンパクトなのが売りだな。遼北人民軍が使っている69式自動歩槍(じどうほそう)なんかがそうだ」


 呆れながらカウラが説明する。誠にはあまりよくわからなかったが自分が遼北に生まれなくて正解だったことと遼北人民軍の左利きの人はどうしているのか聞きたくなった。


「アタシのFN-P90みたいに下に薬莢が落ちるタイプの銃ってあんまりねーかんな。戦争は数なんだ。製造コストを考えたらどうやったって右利き用に開発した方が安いもんな」


 ランの言葉に誠はただ首をひねるばかりだった。


「どこもかしこも予算次第なんですね……」


 誠は世知辛い世の中をマイノリティーの左利きとして生き抜く難しさを感じていた。


「ともかくだ。オメーは伸びる!東和宇宙軍のエリートしか教えたことのねー教官達は教え方が下手だったんだ」


 そう言ってランは長身の誠を見上げた。


「ありがとうございます……でも、射撃は下手ですよ」


「下手ってことを分かってるんならそれでいーんだ。アタシは最初っからオメーにはそんなことを期待してねーんだ」


 元気よくそう言うランだがはっきりと『期待してない』と言われるのはさすがに誠もカチンときた。


「それなら『伸びしろがある』とか言ってくださいよ……」


「オメーには射撃の才能はねー!それ以前に必要ねー!」


 ランはそれだけ言うとシミュレータルームを出て行った。


「でも、僕だって現場に出るんですよ。いつも西園寺さんやカウラさんがいるとは限らないし……」


 そう言いながら誠はかなめとカウラを見つめた。


 二人とも何かを隠しているような気まずい雰囲気が流れているのを誠は感じながら、それを確かめることができない自分の気の弱さに少しがっかりしていた。


「ともかくオメーに射撃の腕は必要ねーんだわ……うん、うん」


 上機嫌でシミュレーションルームを去るランの言葉の意味が分からずに誠はただ茫然と立ち尽くしていた。


「射撃の腕……あった方がいいと思うんだけどな……」


 誠は独り言を言いながらシミュレーションルームを去るランの背中を見送った。

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