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第71話 要は動けば良い

「来たぞ!」


「何がですか?」


 司法局実働部隊機動部隊詰め所。夕方の西日が厳しい時間帯に、その机でぼんやりとたたずんでいた誠に背後からかなめが声をかけた。


「決まってんだろ?オメエの機体だよ」


「ついに来たか。行くぞ、神前」


 端末に何かを入力していたカウラがかなめの言葉を聞くと素早く立ち上がった。


「僕の機体か……」


 誠も少しワクワクしながら立ち上がりかなめとカウラの後に続いて詰め所を出た。


「でもあれか?ノーズアートとか決めてんのか?」


「ノーズアート?あれですよね、機体に絵を描く奴……エースじゃないとやっちゃいけないんじゃないですか?」


 遠慮がちにそう言う誠の肩をかなめは叩きながら話を続ける。


「はったりだよ……オメエは操縦が下手だから強そうな絵でも描いときゃ相手もビビるだろ?」


「その操縦が下手な神前に格闘戦オンリーだったとして負けたのはどこの誰かな?」


「カウラ!テメエ!」


 誠に向けていた笑顔が急変し、かなめはカウラを怒りの表情でにらみつけた。


「お二人とも……冷静に……」


 なんとか誠が間に入って二人はそれ以上のいさかいをすることはなく、機動兵器『アサルト・モジュール』の置かれている倉庫にたどり着いた。


 そこには大型のトレーラーが待機していた。


 トレーラーの運転席の脇には隣接する菱川重工豊川工場の制服を着た技術者と会話をしている技術部整備班長の島田正人曹長の姿があった。


「島田先輩!」


 誠は菱川重工の技術者との会話を終えた島田に声をかけた。


「おう、神前と……まあ皆さんお揃いで」


 茶髪の白いつなぎを着たヤンキー風の島田がニタニタ笑いながら声をかけてきた。


「機体……どうなんだ?」


「ベルガー大尉。どうもこうも……例の『法術増幅システム』ってのが……ねえ……」


 カウラの言葉に島田は少し不機嫌そうにそうつぶやいた。


「『法術増幅システム』……それなんですか?」


 島田の言葉が理解できずに誠はそうつぶやいた。


「うちで採用している05式は重装甲が売りなんだ。ともかく装甲が厚い。大きく3つの層で構成されたハニカム装甲がレールガンの直撃を防ぐって寸法なんだが……この神前の専用機の『05式特戦乙型』にはその真ん中の層に『理解不能』な素材が使われてんだ」


「『理解不能』な素材って!オメエは技術屋だろうが!そんくらい理解しとけ!」


 いつになく遠回りな言い方をする島田の言葉にキレたかなめがそう叫んだ。


「西園寺さん……そんなこと言われても困りますよ……なにせ、俺の『師匠』に当たる人から『いじんないでね!機能は秘密だから!』って言われちゃいまして……」


 島田はそう言いながら困ったような表情でカウラに目を向けた。


「おそらくクバルカ中佐なら知っているだろうが……」


「教えねえ!」


 つぶやくカウラの背後から声がして全員がそちらに目を向けた。


 そこにはちっちゃなクバルカ・ラン中佐が腕組みをして立っていた。


「中佐……そこを何とかなりませんかね……俺達がいじるんですよ?こいつ。もしその『法術増幅システム』とやらが暴走とかして神前の身に何かあった時にはですね……」


「その心配はねー!それにこいつになんかあった時はアタシが責任を取る!それがアタシの役目だかんな」


 そう明言するとランはそのままちっちゃな体でトレーラーの前に立った。


「こいつは一部の遼州人にとっては『画期的』なシステムを搭載してるんだ。いずれアタシの機体にも同様の装備をする……まあ、予算が付いたらだけど」


「それじゃあいつまでたってもつかないですよ」


 ランの言葉に島田がツッコミを入れた。


「そう言うわけだ。神前!こいつをカウラの機体の隣に立てろ」


「へ?」


 誠はランの言うことがすぐには理解できずに聞き返した。


「このトレーラーは菱川重工豊川の備品なんだよ。レンタル料……うちの予算で出せって言うのか?」


 島田にそう指摘されて誠は仕方なくトレーラー前部の梯子を上り始めた。


「オートでやってもいいぞ……まあ自信が無ければの話だけどな!」


 明らかに挑発気味にかなめはそう言った。


「僕だってパイロットなんですよ」


 自分自身に言い聞かせながら誠はそのまま緑色の自分の05式特戦のコックピットのハッチを開けた。


「へー……やっぱりシミュレーターとおんなじ作りなんだな……僕には狭いかな……」


 そう言いながら誠はコックピットに乗り込む。ちょうど天井を見上げるような形で誠はシートに身をゆだねる。


『立てんぞ!』


 ハッチを閉めると島田の声がコックピットに響いた。


「大丈夫です!行けますよ!」


 誠はそう言いながら主電源を入れてシステムを起動させた。


「なるほど……エンジンは位相転移式か……まあ歩かせる程度なら蓄電池とモーターでなんとかなりそうだな」


 一応は理系大学出身なので起動と同時に全天周囲モニターに浮かび上がる文字を見れば誠にもそのくらいのことは分かった。


 そうこうするうちに次第に機体の角度が変わり始めた。


「おう……これが……」


 雰囲気に浸りながら誠は自分の機体が直立していく様を想像しながら笑顔を浮かべていた。


『ベルガー大尉の隣のレーンが見えるだろ?そこに立たせろ!』


 島田の言葉を聞くと誠はそのまま操縦桿を握る手に汗をかいている自分に気が付いた。


「焦るな……冷静に……どうせ補助システムでうまい事動かしてくれるんだから」


 自分自身にそう言い聞かせながら誠はゆっくりと05式の左足を前に踏み出させた。


「よーし……できるじゃないか……」


 右足をトレーラーの台から抜いて何とか自分の機体を自立させた。モニターの下の方では手を叩いて喜ぶつなぎの整備班員の姿が見えた。


「じゃあ……」


 そのまままっすぐカウラの機体の前を抜けて機体を反転させて静かに予定地点に機体を固定した。


『オメエ……できるんだな……やれば』


 何かアクシデントを期待していたような島田の言葉に反応するには誠の緊張は極限を超えていた。


「やりましたよ……」


 わずか数分の出来事だというのに誠は疲れ果てていた。


 そのままコックピットのハッチを開けるとそこにはアメリアが当然のように立っていた。


「大したものね……まあ、私は誠ちゃんならやれると思ってたけど」


「本当ですか……」


「嘘だけどね」


 誠はいつものアメリアの術中にはまった自分を笑いながら彼女の伸ばした手に引っ張られて機体から降り立った。


「よーし!ばらすぞ!総員、関節部から外して第一装甲から引っぺがせ!」


 島田の叫び声にはじかれるようにしてそれまで野次馬を気取っていた隊員達が駆け回り始める。


「やるじゃねえか……」


 かなめとカウラ、そしてランが地上に降りた誠とアメリアを迎えた。


「オメーの機体は05式特戦乙型って言うんだ……『法術増幅システム』搭載の初の実戦型アサルト・モジュールなんだぜ」


 ランは得意げにそう言って笑った。


「あのー……その『法術増幅システム』ってなんなんです?」


「教えねー!動くからいいんだよ!要は動けばいいの!邪魔になるもんじゃねーから」


 誠は予想通りの反応をして誠に背を向けるランを見送る。


「動けばいいか……」


 誠はランの言葉を聞きながら自分の命を預けることになる機体を見上げた。


「僕の機体……」


 誠は感慨深げに自分の『専用機』を見上げた。ここにとりあえず居る理由にはなるかも知れない。誠はそんな後ろ向きの考え方をする青年だった。

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