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第63話 熱意と翻意

「来たんすね」


 本部のアサルト・モジュールハンガーには相変わらず三機のアサルト・モジュール05式が固定されていた。その前で整列していた整備班員の前に立っていた島田がそう言って誠達を迎えた。


「オメエの好きなメカだぞ」


「別に……僕が好きとか嫌いとかどうでもいいじゃないですか」


 不服そうに誠はそう言った。かなめに無理やり腕を引っ張られてきた誠は右腕のしびれを気にしながらオリーブドラブの東和陸軍標準色のカウラの機体を見上げた。


「カウラさんの機体なら神前でもなんとか動かせますよ……姐御のにはシートがちっちゃくて乗れねえし、西園寺さんのは脳と直接リンクするデバイスが必要なんで生身じゃ乗れませんけど」


 島田は感慨深げに05式を見上げた。


「カウラは元々専用機って思ってないからな……乗ってみるか?実際に」


「え?良いんですか?」


 かなめの提案に誠は少しばかり心を動かされた。島田はニヤニヤ笑いながらかなめに目を向ける。かなめはわざとらしく咳ばらいをした。


「さっき叔父貴に聞いた」


「へー」


 二人の雑談を聞きながら誠は目の前の鉄の巨人を見上げた。


「これと同じ機体が来るんですね……僕が乗るはずだった機体……」


「なるんだよ!これはオメエの機体だ!アタシが決めた!」


「西園寺さんの権限じゃ無いでしょ?」


 明らかに一人突っ走っているかなめに島田が茶々を入れる。


 誠は恐る恐るそのままコックピットに上がるエレベータに乗り込む。同乗したかなめがそれを操作してコックピットのところまで上がった。


「凄いだろ」


 かなめの口調は意外にも素直なモノだった。


「凄いというか……開きます?コックピット」


「ちょっと待てよ……島田!」


「分かってますよ」


 島田がカウラの05式の足元にいる技術部員に目配せするとコックピットのロックが解除された。


「メカですね……」


 誠はそう言いながら分厚いコックピットの分厚い装甲板の間に開いた隙間に体を押し込んだ。


「全天周囲モニター……シミュレーターと同じ構造なんですね」


「決まってんだろ。それじゃなきゃ訓練の意味ねえだろうが」


 思わず出た誠のため息にかなめは上機嫌でそう言った。


「こいつは05式特戦甲型電子戦仕様って奴だ。カウラは小隊長だから通信機能が充実した機体に乗ってるわけだ。しかも、指向性ECMによる電子戦装備のおかげでこいつのECMの直撃を食らえばシステムにマニュアル要素の無い機体は即スクラップだ……」


 かなめの言葉を聞きながら誠はレバーや操作盤を眺めた。以前誠が使ったシミュレータに有った見たことのない装置の代わりに電子戦関連の物と思われるモニターとレバーが並んでいる。


「どうだ?気に入ったか?」


 誠は突然背後から声をかけられて驚いて振り返った。


 そこには嵯峨とランが立っていた。


「別にいいんだぜ。うちを出て行っても。それもまた人生さ。お前さんの乗るはずだった機体には俺が乗れば済むことだ」


 嵯峨はそう言うとそのまま巨人の足元に歩いていった。


「それじゃあ困るんじゃないですか?あの、『廃帝ハド』とか言う悪い奴を倒すのに」


 誠はそう言うが嵯峨は誠を一瞥しただけでその足元を撫で続けていた。


「うちの戦術のパターンは減るが。仕方ねーだろうな。他に適当なパイロットも来ねーだろうから……それに『廃帝ハド』が悪い奴かどうかは分かんねーだろ?」


 ランは少しうつむきながらそう言った。


「でも『力あるものの支配する世界』っておかしくないですか?」


 誠はランの言葉にそう言って抵抗して見せた。


「そうか?どんな世の中でも実力のある人間が上に立つのは当然の話だ。奴は『力があるのに虐げられている遼州人』に希望を与えることになる……まあ、結果として力のない地球人がどーなるかは奴が天下を取ってから決まる話だろうがな」


 頭を掻きながら答えるランに誠は黙ってうなづいた。


 そんな二人の間に嵯峨が割って入った。


「俺は思うんだ……力はね、責任なの」


「責任?」


 誠は嵯峨の言葉の意味も分からずオウム返しで言葉を繰り返す。


「そう、責任。力があってそれを生かそうと思ったらその力に責任を持って正しく使わなきゃいけないんだよ。あれだ、神前よ。お前さんは自動車免許持ってんだろ?」


「ええ、まあ」


 突然話を振られた誠はあいまいにそう答えた。


「免許を持ったら道路交通法に従わなきゃならない。事故を起こしたら罪に問われる。それが力と責任の関係だね……俺達、遼州人の持つ力もそうだと思うんだ……力は権利じゃない、それを乱用する人間は罰せられなければならない……だから俺達、『特殊な部隊』は武装警察官なんだよ」


 そうはっきりと言った嵯峨の瞳はいつものたるみ切ったそれとはまるで違う鋭さを帯びていた。


「じゃあ、僕が残れば……」


 誠は自分専用の機体を目にして少し心を動かされていた。


「そりゃあ歓迎するさ。お前さんが最後のうちの希望だなあ。うちの『特殊な部隊』っていう汚名を返上する機会をくれる救世主になるかもしれないねえ」


 それとない嵯峨の言葉に誠の心は決まった。


「僕は……残ります!」


 誠の叫び声を聞くと嵯峨は少し困ったような顔をした。


「本当にいいの?色々面倒なことさせられるし……場合によっては『人殺し』をするかもしれない」


「人殺し?」


 嵯峨の言葉に誠はひるんだ。


「そうだ。こいつは兵器なんだよ。兵器は人を殺してなんぼ。だから、こいつを動かすってことは最悪人が死ぬ……それでもいいのか?その覚悟はあるのか?」


 いつもの『駄目人間』ではない、『大人の男』の顔がそこにあった。


「それで……平和が守れるなら」


 誠の心はいつの間にか決まっていた。


「いいんだな?後悔しても知らないぞ」


 嵯峨はしっかりとした口調でそう言った。誠は静かにうなづいた。



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