第62話 サイボーグの情熱
誠は豊川の駅のターミナルに一人たたずんでいた。真夏の午後の空気は彼の首の周りにまとわりついて汗を染みださせる。
「もう来ないだろうな……この駅には」
そう言って高架になっている駅舎の階段に近づいていく誠の背後でバイクの轟音とクラクションの音が響いた。
「西園寺さん……」
そこにはビッグスクーターにまたがったかなめの姿があった。
「神前!」
かなめは一言叫ぶとそのまま誠に向かって急ぎ足で歩み寄り、誠の東和宇宙軍の制服の襟首をつかんだ。
「おい!返事をしろ!」
「待ってください、西園寺さん。僕はもう関係のない人なんで」
少しひねくれたようにそう言った誠はそのまままっすぐなかなめの視線から目を逸らした。
「関係ないだ?ふざけたことを言いやがって!オメエはアタシの部下!アタシがそう決めた!だから辞めるなんて認めねえ!」
激しく情熱的にかなめはそう言うと誠の襟首をつかんでバイクに引きずっていった。
「何をするんですか!」
抵抗する誠だが、サイボーグのかなめの腕力に勝てるわけも無かった。
「根性入れなおしてやる。アタシと一緒に本部に来い」
そう言い放つとスクーターの椅子を持ち上げて中からヘルメットを取り出し誠に投げてくる。
「関係無いですよ。もう」
すねたような誠の声を聴くとかなめは頭を掻きむしりながら再び誠の制服の襟首をつかむ。
「そんなオメエの感情なんて関係ねえの!アタシが決めたらオメエは黙ってついてくればいいんだよ!」
誠の手から手荷物を奪い取ったかなめはそのままそれをスクーターのシートの下に押し込む。
「そんな無茶苦茶な……」
かなめが強引なのは分かっていた。誠はとりあえずは彼女の押しに負けてそのままスクーターにまたがったかなめの後部座席に乗った。
「行くぞ」
かなめはそう言うとスクーターを急発進させた。
誠はかなめの強引さにとりあえず合わせるようにして彼女にしがみついてスクーターの後部座席で黙り込んだ。
「済まねえが……こういう質なんだ、アタシは」
どこか悲しげにそう言うかなめの言葉を誠は黙り込んだままで聞き流した。