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第41話 ヤンキーとプラモ

 走りっぱなしの一日を消化した誠は、寮に帰ると泥のように眠った。パイロット教習課程でもこんなに体を痛めつけるようなことは一度としてなかった。


「なまってるな……」


 転属三日目の土曜日は休日だった。誠は筋肉痛に苦しみながら朝食をとるとそのまま寮の自室に戻ってベッドに横になった。


 寮の天井はシミが浮いて薄汚れていていかにも中古の建物を借りてでっちあげた建物であることを誠に思い知らせる。


「今日は……初めての休日か……どうしようかな……」


 足も腹筋も鉛のようになって動くこと自体かなりつらい。


 そんなことを感じながら天井を眺めていた誠の目の前に茶髪のヤンキーの顔が急に現れた。


「うわっ!」


「なんだよ、気の小さい野郎だな」


 島田はタバコをくわえたまま誠の顔を覗き込んでくる。


「いきなりなんですか!」


 突然の出来事に慌てながら誠は島田のタバコから出る煙をあおいだ。


「ああ、オメエ宛に荷物だと。なんだよ……まだ母ちゃんが恋しいのか?」


「うるさいです!」


 誠は部屋に入ってきていた島田の部下の整備班員から段ボールを受け取った。


「なんだよ、見せろよ」


 にやけた表情の島田をにらみつけると誠は段ボールに手をやった。


「あれですよ。住む場所が決まったら送ってくれって頼んどいたんです」


「へー」


 野次馬根性で見つめてくる島田に見られながら誠は段ボールを開けた。中には道具箱と戦車のプラモデルが入っている。


「なんだ?」


 呆れたような調子で島田が誠を見つめてきた。


「いいでしょ!とりあえず休みの日にやることが無いと困りますから」


「プラモかよ……しかも見たことが無い戦車だな」


 やる気のない表情の島田に見守られながら誠は戦車のプラモデルの箱を段ボールから取り出す。


「イタリア製なんですよ……M13/40。カッコいいでしょ!」


 自慢げにパッケージを見せつけてくる誠に島田は明らかに関心を失ったような死んだ目で誠を見つめてくる。


「戦車だろ?タイガーⅠとかレオパルドⅡとかじゃねーのかよ」


 島田の言葉に誠は人差し指を立てて諭すような視線を送った。


「そんな普通の戦車は中学時代に卒業しました!究極の戦車はイタリア戦車です!」


 誠のコアな趣味にドン引きしながら島田は立ち上がると大きくタバコをふかした。


「そんなもんか……そのM13とか言う奴。性能良いの?」


 島田は誠が持った戦車のプラモの箱を見ながらそう尋ねた。


「あんまりよくないですよ……敵がイギリスのマチルダ歩兵戦車とかリー戦車の75mm砲とかだったんで……一方的にやられました」


「なんだよ、意味ねえじゃん」


 明らかに島田の戦車のプラモへの関心は薄らいでいた。


「でも頑張ったんですよ!エルアラメインの戦いでは敗走するドイツ軍の背後を守って奮闘して!」


「へー。それでどうなった?」


「全滅しました……アリエテ師団が」


「だろうねえ……二次戦の戦車にしたら形が時代遅れの格好だもん」


 島田は冷ややかにそう言うとタバコをくゆらせた。


「まあいいや。プラモでも作ってなじんでくれりゃあそれでいいんだ。まあ、今日、明日と休みなんだから体を休めて月曜に備えてくれ」


 そう言って島田は部屋を後にした。


「さてと……ニッパーや紙やすりはあるけど、他にもほしいものがあるからな。よし!今日は豊川の街に出てプラモ屋を探そう!」


 誠はそう言うと立ち上がって私服の入ったバッグに手を伸ばし、街に出かける準備を始めた。



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