第37話 結構気に入られたらしい
「いやあ、盛り上がった!」
上機嫌でアメリアがビールのジョッキをカウンターに叩きつける。
「いい感じだったな。これまでの連中とは違う」
そう言いながらカウラが立ち上がる。
「もう終わりか?」
「西園寺さん。明日は金曜日ですよ。勤務があります」
「仕方ねえな」
誠の言葉に明らかに飲み足りないというようにかなめはグラスに残った酒をあおった。
「それじゃあ、お勘定」
アメリアの言葉を聞くと小夏は跳ねるようにレジに向かう。誠とカウラはそれを見ながら縄のれんをくぐる。
日暮れすぎのアスファルトの焦げる匂いを嗅ぎながら豊川のひなびた路地に転がり出る誠達の前を野良犬が通り抜ける。
「なんだか楽しかったです」
誠はそう言って頭を下げた。
「結構飲んでたが……大丈夫か?」
カウラの気遣いに誠は照れながら彼女の後に続いて『ハコスカ』の待つコインパーキングに向かった。
「どうだ……うちは……まあ仕事なんかほとんどねえからな……今の遼州同盟は平和だ……十年前とはわけが違う」
かなめは手を差し出してくるアメリアに万札を渡しながらそうつぶやいた。
「そうですね……遼南内戦も収束して……甲武国の政情も安定しているらしいですから」
「教官の言ったことをおうむ返しにしても意味が無いぞ。いまだにベルルカン大陸では内戦やクーデターが起きている。平和なんて……いつ来るか……うちにいつ出動命令が出るか分からないんだ」
カウラは誠をそう言ってにらみつけた。
「なあに、ベルルカンの失敗国家の清算も進んでるからな……それは政治屋さんのお仕事で、それこそ軍のお仕事だ。うちは軍事警察……関係無い無い!」
かなめは上機嫌でそう言って誠達を置いて歩き始めた。
「本当にそうでしょうか……」
「かなめちゃんの言い分は半分は本当ね。ベルルカンにうちが出張るのはもう少し情勢が落ち着いてからでしょう……選挙監視とか難民の帰国なんかが始まったら助っ人に呼ばれるかもしれないけど……あそこはそこまでにはちょっと時間がかかりそうよね」
誠はアメリアがまともなことを言うのを呆然とした顔で眺めていた。