第32話 脱落者① 『オミズ』
「じゃあ、これまで来た5人のダメなパイロットの話をしましょう!」
「えー、あの馬鹿どもの話か?酒がまずくなるぜ」
アメリアの提案にかなめは嫌な顔をしながらラムの入ったグラスをすすっている。
「最初に来たのは……」
カウラはそう言って首をひねった。
「オミズよ!オミズ!」
嬉しそうにアメリアが叫んだ。
「ああ、いたなそんな奴。印象薄くて顔も名前も憶えてねえけど」
かなめはそう言ってラム酒のグラスを傾けた。
「オミズ……女性だったんですか?」
「違うわよ。男の子……遼州の月の『ハンミン国』出身の真面目そうな子」
いぶかしげに尋ねる誠の言葉をアメリアはビールを飲みながら軽く否定した。
「オメエが初対面のアイツに水ぶっかけるからだろ?」
「水ですか!」
かなめの言い出した言葉で誠は運航部の入り口で逢った『金ダライで歓迎事件』のことを思い出した。
おそらくはあそこにバケツでも仕込んで水をぶっかけたのだろう。
誠は呆然としてアメリアの底知れない不気味な笑顔をのぞき見た。
「かなり怒っていたな」
「そりゃあ初対面の人の頭に水をぶっかければ怒りますよ!」
常識人に見えて完全に『特殊な部隊』に染まっているカウラの薄い反応に、誠は思わず強めに叫んでいた。
「つうわけで、水をぶっかけられて激怒したそいつはそのまま叔父貴にタクシー券を渡されて豊川駅からさようならしたわけだ……オメエもあそこで帰ったら交通費うちもちで帰ることができたのに……ここまで来たら帰りは自腹だからな」
薄ら笑いを浮かべながらかなめそう言って笑った。
「僕は……残るつもりですから……」
「本当に?本当に?」
冷やかしてくるアメリアを冷めた目で見つめながら誠は砂肝を平らげた。